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小説『Endless story』#3-2

 #3-2【キィーンキンキンキンキンキーン

 

 

 

 ナーシャ・スフィアロット……『ナーシャ』に対して、まず第一に「凛々しい印象の人だな」と思った。

 鮮やかな青い長髪をポニーテールでまとめ、左目を眼帯で覆い隠し、こちらも青を基調とした軽装ながらも戦士を思わせる風体――コートのような衣装が凝らされたデザインが、私より10cm以上高いであろう彼女の長身に似合っていた――で、キリッとした面持ち。

 素直に、女性ながらカッコいい人だと感じた。

 

「早いな」

「ユカリに今日の任務の説明もしていたからね。このチームでブレイバーに造詣が深いと言えば貴女たちが思い当ったから、声を掛けさせて貰ったわ」

「嬉しい事を言ってくれるじゃないか」

 

 ふ、と余裕のある微笑みでナーシャはルベルに返事をする。応対までイケメンだこの人。

 

「ライレアはまだ来ていないのか?」

「とは言っても、まだ集合時間の前よ」

「それもそうだな、と……噂をすれば」

 

 彼女の視線の先を追うと、ロビーの向こうから誰かが全力疾走でこっちへ向かってきているのが見えた。なんか両手を広げて、子供が飛行機のマネをするようなポーズで走ってくる。何だアレ。

 ブレーキ音でも鳴りそうな勢いで私たちの前に急停止すると、私と同い年くらいの彼女はビシッと折り目正しく敬礼し、思いっきり息を吸い込んだ。

 

「はじまめしてライらえでうsっ! よおrしくおんgねあいgまっす!」

「えっはい?」

 「ライレア、噛まないように落ち着いてもう一回頼むわ」

 「走るところからでうsか」

 「いや挨拶からでいいから」

 「では改めまして」

 「えっあっはい」

 

 謎の勢いに気圧され、思わずつられて返事をする。

 

 「大変に失礼しました! わたしは『ライレア』です! 年は17歳! 尊敬するアークスはラヴェールさん! 最近のマイブームは空き缶釣り! よろしくお願いしまっす!」

 「あっわっ私はユカリですっよろしくお願いしますっ」

 

  引き続いて謎の勢いに気圧され、今度はつられて思わず私まで敬礼をしてしまった。

  同い年くらいかなと思ったら、実際にそうだったらしい。空色のカーディガンを羽織り、金髪に水色とオレンジのオッドアイが特徴的な彼女・ライレアも、今回の同行者なのだろうか。

 

  前回のチャレンジクエストでブレイバーとしての適性を伸ばすことに決めた私は、今回もVR技術による訓練施設へ向かうことになった。

  前回と違う点は、VRにより再現されるのはエネミーのみでフィールドは反映されないといったところ、そして従来のクエスト通り、途中でクラスの変更は出来ないことくらいだ。

 

 キャンプシップを経由しVR訓練施設へ降り立つ。そこは無機質な白い床と壁が立ち並び、いかにもSFの訓練所か研究施設といった光景だった。

  実はオラクルへ連れて来られた当初から、こういったSFチックなものを見るたびに謎の高揚感を味わっている。私は今ホントに、物語の中で触れるだけだった世界に居るんだなと実感するのだ。

 

 「さて、それじゃ本格的に訓練を始めるわ」

 

  私の前に立って向き直ると、ルベルは2本指を立ててみせた。

 

 「まずひとつ目に、体内のフォトンを自由に流動させる技術」

 

  アークスは身体に留めたフォトンを制御することで、全体的な身体能力を底上げする。たとえば踏み込むときは足に、打ち込むときは肩から腕に、防ぐ時は相手の攻撃が触れる面にフォトンを集約させる。前回のチャレンジクエストで、全くそれらしい運動経験のない私でも(一応)それなりに動けたのは、この力によるものらしい。

  一撃の強化、機動力の向上、そしてタフネスの増強――あらゆる面で恩恵をもたらす、基礎の基礎とも言える技術だ。

 

 「そしてふたつ目は、フォトンを体外へ攻撃として放つ技術」

 「体外へ……?」

 「ライレア、お手本を頼むわ」

 「ほいさ」

 

  ライレアが小気味よく返事すると、それが合図のように、いきなりダーカーが目の前に現れた。ダガンが3体、エル・アーダが1体。ライレアは進み出て、青龍刀に似た水色の綺麗な抜剣『ディエスリュウ』を腰の下で構える。

  姿勢を沈め、力を溜め、瞬きする間もなく――。

 

 「――『ハトウリンドウ』!!」

 

  一閃、刃が放たれた。

  斬撃は怒涛の奔流となる。距離があったにも関わらず幾重もダーカーを切り裂いて呑む。

 

  屈強な原生種やダーカーを相手に、アークスはどうやってダメージを与えているのか。

  それは武器を、放つ弾丸を、詠唱などを媒介して、フォトンというエネルギー体を対象へ叩き込んでいるのである。

 

 「今、ライレアが放った『ハトウリンドウ』なんかは特に分かり易いわね。こうしてフォトンを込めた一撃によって、リーチを拡大しつつより強力な一撃を放てるの。そして極端な話、アークスが扱う近接戦闘の技術は全てこの2つのいずれか、もしくは両方を組み合わせたモノよ。基本は理解できたかしら?」

 

  私は頷く。つまりは体内にフォトンを留めて立ち回りつつ、溜めたフォトンを放ち叩き込むことが基本らしい。

  前回、チャレンジクエストでも……『あれ』が果たして本当に出来ていたと言えるかはさておき、感覚は掴んだ気がしないでもないので、案外うまくやれるかもしれない。

  そう思った矢先。

 

 「なら、実技訓練を始めましょうか。カタナを使って――ナーシャに一撃でも掠らせてみなさい」

 「……えっ」

 

  ルベルはとんだ無茶ぶりを私に要求してきた。

  私だけでなく、ナーシャも呆気にとられたような表情をしている。

 

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