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小説『Endless story』幕間6

今回の更新を担当するViridisです。

二次創作小説『Endless story』を書かせていただいています。

 

今回はオマケ回というコトですが、恒例の「ぐだらじ☆出張版」ではなく、7章に繋がる別の掌編を投稿させていただきます。

本作品も全10章予定のうち折り返し地点を過ぎ、いよいよ下り坂へと差し掛かります。

まだ今しばらく、本作品を見守っていただけたらと思います。

 

 

 

EX-5

 

 最初に会った時から、その態度が少し気になった。

 自分が死なずに済んだと告げられても、喜ぶでも安堵するでも、戸惑うでもなく、ただあまり興味も関心も無さそうな表情を浮かべていたからだ。なんなら、あと少しで死ねたのに……なんて思っていそうな、そんな沈鬱な表情を。

 

 訓練……チャレンジクエストへ連れて行ったときに、それは確信へと変わった。いくら筋が良くても、あんな恐怖も感情もかなぐり捨てて置き去りにしたような戦い方、よほどの死にたがりにしか出来ない。そして皮肉にもわたしはその「死にたがり」を1人、他によく知っていた。

 ただ気にかかったのは、あの時のユカリの姿そのものに違和感も感じたこと。まるで、誰かに外部から操られているような……そう思える程度には、本人の無機質さと、動きの鋭さが嚙み合っていなかった。

 

 チャレンジクエストを終え、彼女とアルーシュたちを交えて、6人でランチを食べた。ハンバーグの味を噛み締めながらぼろぼろと大粒の涙をこぼすユカリを見て、その奥底にきっと測り知れない、暗い影が横たわっているのだろうと思った。

 

 会ったばかりの地球人に、本来ならばわたしたちがここまで肩入れする理由などない。けれどわたし自身が、あまりにも深い「愛」や「信念」といった類に支えられて、今ここにこうしているからなのか……――願わくば彼女も救われてほしい、と、少しだけ思った。

 

 ナーシャによる戦闘訓練が始まってから、しばらくして「なぜユカリにここまで厳しくするのか」と問い詰められた。正直なところ、少しだけ驚いた。何しろ今ユカリに課している訓練は、かつてわたしがウィリディスから受けたものと全く同じで、特別厳しくしているつもりもなかったからだ。ちなみに今日にいたるまで、わたしは結局あの男に一撃を与えるどころか、掠らせることさえも出来ていない。

 

 ただユカリに戦闘技術を仕込む必要性だけは説いておいた。ウィリディスの報告と団長の推測が正しければ、ユカリは何者かにより意図的に生み出され、何らかの役割を帯びてここに居る。ではもしもユカリがその役割を終えたとき、彼女はどうなるだろうか。

 用済みとして処分されるのか、兵隊として牙を剥くのか。どちらであったにせよ、回避するには、彼女自身が強い「器」と「自我」を持つしかない。

 そのためには訓練は無論、実戦の経験も視野に入れる必要があった。いずれも、彼女の成長を心身ともに促すためだ。

 

 地上の作戦区域内で、突如としてユカリの周りに「紫色のコアのダーカー」が現れた件。そして市街地で予期しないダーク・ビブラスの出現。このダーク・ビブラスのコアもまた、紫色という特徴を持っていた。

 その前後に彼女の周囲で観測された反応から鑑みても、彼女が紫色のコアのダーカーが生まれる際の、経路のようなモノになっていると考えられた。ひいては、それがユカリの帯びた役割の、1つでもあるのだろう。

 

 つまり紫色のコアのダーカーを、オラクルに直接送り込み、打撃を与える魂胆らしい。

 

 わたし自身は不甲斐なくも途中でリタイアし、しばらくの間は入院するハメになった。報告を聞いて不思議に思ったのは、ユカリが召喚したと思われるダーク・ビブラスの爆弾を、ユカリ自身が破壊したことである。考えられる可能性は3つ。

 

 1.ユカリが信頼を得るため、ユカリの背後に潜む別の「誰か」が、ダーク・ビブラスの出現とその対処を自作自演した。

 2.ユカリの背後に潜む別の「誰か」の意思が、ゆがんだ形で表出した。

 3.もしくは、その両方が絡み合っている。

 

 ユカリ自身が、ユカリの背後に潜む別の「誰か」の意思に抵抗した可能性は、この時点では考えにくい。それを裏付けるように、わたしが入院している数日間、彼女は精神状態が非常に不安定だったという。

 

 アリシアが、ユカリに「友達になってほしい」と頼んだことは全くの想定外だった。

 それは結果的にいい方向へ作用したと考えられるだろう。ユカリが確固たる「器」と「自我」を手に入れるためには、それが根付く「居場所」を自覚させる必要があった。形はどうあれユカリのアイデンティティーを確立させることが究極的な目的ではあったが、やはり「誰かとの絆」を得たときに、ヒトは強くなれると、わたしはそう考えている。

 

 しかし、ここに来て1つの誤算が発生する。ユカリの、取り分け個人情報に関する記憶の欠落が判明した。おそらくは、ユカリの背後に潜む「別の誰か」によるものだろう。

 ようやくあと少しで、その「誰か」を割り出せそうだというところで、まだ調査は難航しそうな兆しを見せ始めた。

 

 ロゼがファルス・アンゲルへと変貌し、消息を眩ませた。

 いわゆるダークファルスの召喚の可否は、懸念されていたことの1つだったが、まさか元来のそれらと同様に依り代が必要だとは予想されていなかった。念のためにダーカーの巣窟があった座標周辺の捜索は続けられているが、もうあの場にロゼはいないだろう。

 

 おそらくロゼは「誰か」によって、ファルス・アンゲル――ひいては、ダークファルス【敗者】になるための駒として、ストックされた。

 これもユカリの役割の1つといったところだろうか。すなわち、ダークファルス――に似た、実際は紛い物だが――へとなり得る人材の選定だ。

 

 地上で頻発している「紫色のコアのダーカー」は、事実上ウィリディスとマーミンが、他の幻創種への対応と併せ全て殲滅している。その戦力に疑いは無いものの、あくまでも2人。とても他に手が回る状況ではないだろう。

 では、今わたしに出来ることはなんだろうか。ただ手をこまねいていては、誰かが次のダークファルス「もどき」に選定される。

 

 ……――虎穴に入らずんば虎子を得ず、と地球では言うらしい。

 

 1つ、わたしの脳内に案が閃く。その方法が、最も合理的であるように思えた。何より、上手くいけば一気に相手の懐へと潜り込むことが出来る。

 そのための準備も、手立てもついている。久しぶりに『アーテル』を頼ることになるし、彼が素直に首を縦に振るとも思えないが、それは食い下がって説得するしかないだろう。

 ただ1つ、懸念があるとするならば――……。

 

「わたしがいなくなったあと、ユカリは大丈夫なのかしらね」

 

 

 

【Character file:Chapter6】

 

Name:ハイド 36歳 ♂ byヒドニキ

ガンナー、レンジャー、ハンターを扱うベテランアークス。主な使用武器はミストールオービット。

キャストへ転身する前の本名は『リコリス・クラウゼン』。

妻・ツバキは既に他界しており、ロゼという一人娘が居る(溺愛しており親バカ)。キャストとしての武装は任務にあたる時のみであり、普段はヒューマンだった頃の姿で生活している。

ダークファルス【若人】の市街地襲撃の際に、ファルス・アンゲルと交戦し瀕死の重傷を負い、妻であるツバキは彼をかばって命を落とし、娘のロゼとも生き別れになる。この時負ったトラウマによって、以降有翼系ダーカーと対峙すると一時的な暴走状態になる。

性格は生真面目で、任務遂行に忠実かつ堅実なタイプ。

 

Name:ロゼ 19歳 ♀ byヒドニキ

ハイドのひとり娘。13年前のダークファルスによる襲撃で、書類上は両親を失ったことになり孤児院へ引き取られる。

それから孤児院の運営者だったルーサーに、デューマン化の試作として様々な実験を施された。

実験の数々から深いトラウマを抱えているが、普段は元気のいい溌剌とした女の子。

孤児院に引き取られてから10年が経過した頃、ハイドによって救出された。その後は、彼のマイルームを拡張してそこに暮らしている。

ハイドの守るべきものにして生きがい。

クラスはブレイバーで使用武器はカタナ。

 

Name:ツバキ 享年24歳 ♀ byヒドニキ

ハイドの妻だった女性。13年前に、ファルス・アンゲルから娘であるロゼを助けるため命を落としたベテランアークス。

 

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