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小説『Endless story』#6-5

# 6-5【二度と帰れない闇の彼方へ】

 

 

 

 デコル・マリューダが胴から赤い弾丸を幾つも飛ばす。

 

 跳ね、飛び、潜り、駆け抜けてその全てを躱し距離を詰めるお父さん。

 懐へ潜り込む。至近距離で銃口を定める。トリガーを引く。デコル・マリューダの胴が吹っ飛ぶ。敵が絶叫を上げるよりも早く追撃。もう片方の銃口が青いフォトンを放つ。

 

 デコルは怯む。しかし横から迫るリンガーダの突進。お父さんは背後へ身を翻し避ける。間髪入れずに渾身のショルダータックル。

 横から突き動かされた巨体はよろめく。デコルとリンガーダが直線状に並ぶ。決定的な隙へと更に追撃。連続する銃声が響く。

 

 負けじとリンガーダの槍が振られる。これもお父さんは空中へ跳んで避けて、デコルの頭部へ照準を合わせた。放たれるは、より苛烈な連射。

 まるで滝のように流れる弾丸が赤い爪を、鬼面を思わせる頭部を、紅いコアが連なった胴体を見境なくハチの巣にしてゆく。

 

 衝撃で回りながら、力なく倒れるデコル。地上へ降り立つお父さん。

 隙ありとばかりに踏み込んで、槍と抜剣の柄に手をかけるリンガーダ。

 横合いに転がって、4手から放たれる斬撃を搔い潜る。しかしリンガーダは胴体から2つのリングを飛ばし、赤黒い竜巻を発生させる。さらに手数を増やし、ハイドを追い詰める算段だろう。

 

 竜巻はお父さんの左右から迫り、逃げ場が無くなった彼に正面から突進が迫る。

 

「お父さん!」

 

 思わず声を上げる、しかし。

 

「――心配するな、ロゼ」

 

 お父さんは短く、それだけ言った。

 左右に広げた『ミストールオービット』から銃声。それらは寸分の違いもなくリングを穿った。

 リンガーダは突進の勢いを殺しきれないままダウン。前脚から崩れ落ち。同時に下腹部の鎧が開いてガードを失う。

 

「『チェイントリガー』起動」

 

 お父さんの宣言と同時に弾丸を撃ち込まれた、リンガーダの赤いコアが、青く淡く光る。

 更に身動きが取れなくなったソイツへ、続けざまに銃弾の連弾が叩き込まれ。

 

「――チェイン30『インフィニティファイア・零式』」

 

 銃口を揃え、溜めの後に放たれる青き暴威。

 それは鮮烈な光を伴い、蓄積された膨大なフォトンと共に爆裂する。

 青い烈風――フォトンの奔流は周りの小型ダーカーを消し飛ばし、中型ダーカーまでもを吹っ飛ばした。あまりの衝撃に私と、ユカリ、ルベルは腕で視界を覆う。

 

「……流石にやるわね、あなたのお父さん」

「あはは……虚空機関に攫われて、ダーカー因子を埋め込まれてデューマンになった私を救い出した、自慢の父です」

 

 烈風が止んだ時、私たち3人の目の前にあったのはハイドの姿、そして消し飛ばされず生き残りながらも、怯んだまま、警戒したまま動かない中型ダーカーたちの姿。

 これで、完全に形勢は逆転した。

 

「さて。合流地点も近い、あとは残りを掃除しようか」

 

 言いながらハイドはミストールオービットを、私たち3人も得物を構え直す。

 

「キャンプシップが壊れて、分断さえされて居なければ、最初からこのくらい楽だったのかしら……」

「ユカリ、あと少しだけれど大丈夫そう?」

 

 言って振り向くと、ユカリは何事かを呟きながらうつむいていた。

 

「ユカリ?」

 

 さすがに連戦が続いたので疲れているのだろうか。

 もう一度声をかけて、その表情を覗き込もうとしてみると……彼女の身体が、淡く紫色の光を放っていることに気付く。

 その纏っている雰囲気も異質で、しかしどこかで似たようなモノに覚えがある。戸惑い、思い出せないまま彼女を見つめていると。

 不意にユカリが顔を上げて、こちらを向いた。

 

 

 

「……――うん。あなたにしよう」

 

 そして、それだけ呟いた彼女の瞳もまた、紫色に淡く光っていた。

 

 

 

 思い出した。

 これは、あの白い施設で「ルベル」――いや「ステラ」とすれ違った時と似た感覚。

 そう結論付けた瞬間、私は夕闇に沈む空のような、青紫色の「闇」に包まれて――……。

 

 

 

 

 

 

 ロゼが青紫色の闇に包まれ、取り込まれていく瞬間……あまりにも突然のことだったが、ハイドは彼女の方へ咄嗟に手を伸ばした。

 しかし伸ばした指先が届く前に、臨界を超えて溢れ弾け出す、フォトンというには禍々しい力の奔流。ほとばしった強烈な突風にハイドも、ルベルも、ユカリも吹き飛ばされる。

 受け身を取る暇もなく転がり、しかしハイドはすぐに態勢を持ち直した。

 そして、青く光る機械の両目が映し出したモノは、愛娘・ロゼの姿……――ではなく、6枚の大きな翼を携えた化け物。

 化け物は、凡百のダーカーとは比べ物にならないプレッシャーを放っていた。

 

「う、お……」

 

 ハイドは、動揺した。混乱した。

 実の娘が、妻だった女性の仇――その姿に変貌するなどという現実を目の当たりにして、言葉を失った。

 

「……――おおおおぉッ!!」

 

 しかし、武器を携えて立ち上がる。照準をゆらめく大翼に合わせる。

 まずは機動力を削ぐ。先制攻撃でイニシアチブを握る。確実にそいつを抑えられる状況を作ってから、現状の把握を急ぐ。その算段だった。

 ルベルもまた、素早く横合いから踏み出している。すでに抜刀の姿勢、距離は刃圏まで詰めている。2人の即断が、化け物を捉えるハズだった。

 対して、化け物は迎え撃つ……――でもなく、ただ背後へ下がって距離を取る。

 

「な、に」

 

 そして、ハイドたちに背を向ける。

 逃げる気だ、と勘付くもすでに遅い。

 

「ちくしょう……――待て!」

 

 ハイドが伸ばした手も、叫びも空しく……化け物はどこかへとワープし、後には不気味な静寂だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 世界群歩行者達に所属している、ストローハットを目深にかぶっている男「hiro」、仮面を着けた男「バァラル」、狐を連想させる白い耳と尻尾を生やしている女性「レティシア」、そしてナーシャの4人が合流地点へ降り立つと、すぐにハイドら3人の姿を見付けることが出来た。

 

 しかし、ロゼの姿だけが見当たらない。

 ルベルは強く歯噛みしており、ユカリは手が震えたまま呆然と立ち尽くしている。呼吸も乱れ、明らかに何が起こったのか分からないといった風だった。

 ハイドは少し離れた場所でただ静かに立っており、銀色のフェイスパーツの下に巡っている感情は量れない。ただ、その手が固く、強く握り締められていた。

 

「ひとまず、この近辺を捜索してくれ! ただしダーカーの巣窟は磁場も足場も何もかも不安定なので、事前に決めた区画より外へ出ないこと!」

 

 ナーシャは共に来た3人へ指示を飛ばしながら、3人の方へ歩み寄っていく。

 明らかに憔悴しきっており、未だに混乱もしているだろう3人に向かい、どう切り出すべきかを悩んでいるらしい。

 しばらく思案した後、ナーシャは本題に入った。

 

「……――改めて聞くが、ロゼがファルス・アンゲルになって消えたというのは、本当か?」

 

 

 

Chapter6『閉ざされた世界』End.Next『#7-1』

 

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