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小説『Endless story』#4-3

# 4-3【Yah-Yah-Yah-Yah-Yah!】

 

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラァ! どけや邪魔だハッ倒すぞブッ倒すぞォ!」

 

 青い軌道が閃く。赤いマフラーがはためく。

 真一文字に振り抜かれたコートエッジが外皮ごとブリアーダを粉砕する。

 振りぬいた勢いで回ってスッ飛びながら前方へ。

 思い切り刀身を地面に叩き付け。

 フォトンの衝撃波でダガン数体ほどが仲良く爆散。

 地面に深々と突き刺さり、隙ありとばかりにエルアーダが背後から迫る。

 しかしすかさずコートエッジを手放し。

 虚空から光のガラスが砕けるようなエフェクトと共に両剣「コートダブリス」が現れる。

 エルアーダの下腹部コアに刃が深々と突き刺さり、そのまま力任せにブン回す。

 

「だァアアアらっしゃあああああい!」

 

 フォトンで増幅された風が竜巻を起こす。

 周りの小型ダーカーを巻き込み吸い寄せる。

 ひとかたまりになった瞬間、絶好のチャンスとばかりに飛び上がったカナトは――思い切り牙を向いて、全力でコートダブリスを振り下ろした。

 

 コートエッジ、そしてコートダブリス。いずれも特別な性能というコトはなく量産品の武器である。それでもなお、波状に襲い来るダーカーをものともせず邁進する。

 カナト・ルズイスとは、世界群歩行者達において近接戦闘のプロのひとりだ。

 

「カナト、あまり先行しすぎないで!」

「わあってるよ、進路を切り開いてるだけだ!」

 

 訓練とは明らかに違う空気。実践独特の肌を刺す緊張感。絶え間なく変わり続ける状況は予想もつかない。一挙一動が自分やパーティーメンバーの命に関わるかもしれない。

 そんな場にありながら、気を張っているように見えてあくまで平然と、ほどよい余裕を保ち、周囲の戦況を常に俯瞰する。

 

 ――振り向いたとき、カナトはそんな態度を見せているユカリに対して強烈な違和感を抱いていた。

 

「ユカリちゃんはついて来れてるか!?」

「え、あ……大丈夫です」

「だからカナト、あなたがもう少しペースを落としなさい!」

 

 カナトは自身が初めて実地任務へ赴いた時の事はよく覚えている。自らの技量や同期のサポート、そして先輩の救援もあって事なきを得た。

 しかし、ちゃんと――サボる頻度も多かったのは、この際目を瞑るとして――養成学校へ数年間通って、無事に卒業した自分ですらも緊張でガッチガチに固まったモノだ。

 

 一方でユカリは、緊張しているように見えて落ち着き払っている。ともすれば、目の前の出来事を他人事として認識しているかのようにすら見えた。

 話に聞いている普段のユカリから言っても、たまたま「そういう性格」であるとは考えにくい。

 自分の命に頓着がないから?

 だとしても、違和感をぬぐい切れない。

 なら、その違和感とは何だ。

 

「――止まって!」

 

 突如、アルーシュが声を張り上げた。

 カナトとルベルもその意図をすぐに察し、陣列を崩さないまま4人はその場で止まる。

 

「分かる?」

「ええ――この反応は大きいわね」

 

 肌を刺す空気が鮮烈になってゆく。風が悲鳴を上げて、脅威の襲来を告げる。

 アルーシュとルベルが「その予感」に気を研ぎ澄ませ、構える中――たまたまユカリに注視していたカナトだけは、それを見た。

 

 ユカリの周りだけ淡く、仄かに、しかし確かに紫の光で包まれる瞬間を。

 

「来るわ!」

 

 それが何か、などと思案するヒマは無かった。空間を引き裂いて、それは生まれ出ずる。

 降り立ったのはダークファルスを除けば、実に全ダーカー中、最大の巨体を誇る超弩級蟲系ダーカー『ダーク・ビブラス』。黒い羽根を広げ、烈風を巻き起こし、地響きを鳴らし、耳をつんざく咆哮で圧倒的な存在感を示した。

 

「なんで……リリーパの採掘基地ではなく、市街地のド真ん中に!?」

「それだけじゃない、コイツ――」

 

 頭部からそびえるツノの根本に見えるコア、1対の巨大な触腕、普通の昆虫であれば「腹」に該当する部位、羽の下。そのいずれもが――。

 

「――紫色のコアのダーカーだ!」

 

 異色のダーク・ビブラスが触腕を振り抜く。巨大な紫の光球が3連続で飛んでくる。

 

「ユカリ、避けて!」

「え、あ、は、はいっ!」

 

 ユカリは応じる。しかし初動が遅れた。おそらくは間に合わない。

 カタナで弾道を逸らせるか。いや無理だろう。まだそこまでの技量は備わってない。

 光球が殺到し、彼女は吞み込まれる――。

 

「ボサッとしてんじゃねえよ!」

 

 ――直撃の刹那、カナトが割って入りコートエッジを盾に立ちはだかった。

 地面がバターのように抉られる。衝撃が迸る。吹っ飛びそうになるも、奥歯を思い切り噛み締めて踏ん張る。

 そして紫と青の閃光が混じり合って、弾け飛ぶ音。間一髪で凌いだ。

 間を置かずに、カナトとユカリの背後から1枚のタリスが飛んで来る。タリスは優し気な淡い光を放ち、カナトのダメージを癒す。アルーシュによる支援だ。

 

「別働隊が大きな反応の方へ向かっているからって、油断したわ……」

「そうね。流石にこれは想定外だわ……さて、どうしたモンかしらね」

「――上等だ、燃えてくるじゃんか」

 

 火の手燃え上がり、緊急警報鳴りやまぬ市街地で、3人は強大なダーカーを見上げる。

 だから背後に立つユカリの口角が、ほんのわずか薄く笑うように歪んでいると、気付く者はその場に居なかった。

 

 

 

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