小説『Endless story』#2-5
- 2016/06/08 09:29
- カテゴリー:Endless story, 小説, PSO2, ゲーム
- タグ:EndlessStory
- 投稿者:Viridis
#2-5【おいしいね、の一言で】
オラクルを根城とするアークスだって、当然ながら住むし食うし寝るし生きている。
そんなアークスの食生活を、いわゆる「食堂のおばちゃん」的立ち位置でサポートしていた『フランカ』さんが正式にアークスから認可を受け、かなり大規模な自分のカフェを立ち上げたのはつい最近らしい。
「わあ」
ロビーから続くテレポーターを出ると、明るいブラウンを基調とした広い空間へ出た。あちこちに草花が置いてあり、普段のロビーとはまた違う、柔らかな印象に包まれている。
向こうに見えるのは、市街地のビル群だろうか、開けた場所に作られているようで見晴らしも良い。
「あんまり居心地が良いからってね、ここに居座るアークスも少なくないのよ。ハイドも、たまには『ロゼちゃん』と一緒に来てあげなよ」
「そうだな……誕生日も近い事だし、たまには父親らしいことをしたい」
「娘さんがいるんですか?」
「ああ。ちょうど君と同じ位……いや、ロゼの方が少し年上か」
話しながら、ハイドにアルーシュ、AAA3rdらと一緒に適当な座席へと腰掛ける。abe-cは「ワイは別の任務へ向かわなあかんねん。ごめんな、ほなまた今度!」と先に行ってしまった。
床やテーブルは木製なんだな、と思いテーブルに触れてみると、どことなく単なる木材とはまた違った独特の感触がした。どうやら、こういったものも含めてフォトンで構成されているらしい。
ルベルの(正確には『家主』の、だが)マイルームでもそうだったけれど、あえてローテクな文化に見た目を寄せるのはオラクルの流行りなのだろうか。
「いらっしゃいませ、こちらメニュー表です――……あれ、アル姐とハイドさん、それにあああさんと新人さん」
言われて見上げると、金髪に紫色の瞳、それから背に生えた大きな翼が特徴的な少女。カフェらしいウェイトレスの姿がよく似合っており、非常に可愛らしい。私よりも年下に見える。
「とりっぴーだ」
「新人さんは自己紹介がまだでしたね。私は『只野鳥類』、よろしくお願いします」
「ゆ、ユカリです……よろしくお願いします」
只野が苗字で、鳥類が名前だろうか……その、なんというか独特な名前だ。
「ちなみに、そんな見た目だけれどとりっぴーはれっきとした男よ」
「ファッ!?」
「さらに言えば余裕の20代です☆」
ちょっと待ってどういうことなの。リアル女子高生の……いや、中退したけれど……私より若々しくて可愛いってどうなってやがる。私も可愛い部類じゃないけれども。
思えばルベルもアルーシュも整った容姿だし、昨日チームルームで会った女性陣も美人さんばかりだったような。オラクルは魔窟だ。
「でも、なんでとりっぴーがここに?」
「ここでバイトをさせて貰っています。副業にとここで勤めているアークスも、少なくはないんですよ。あ、ご注文が決まりましたらどうぞ。ちなみにオススメは『只野鳥類特製冷やしからあげ定食23人前』です!」
「あっえっ、えっと……でもすみません、私いまお金持ってなくて」
なにしろダーカーに襲われてからそのままオラクルへ来たので、コンビニへ多少の買い出しに行く程度の持ち合わせしかない。バイト先を辞めさせられてからというものの、私の金銭事情は一層シビアだった。
そもそも、オラクルで地球の通貨って使えるんだろうか。
「そのぐらい奢るわよ」
ルベルに言われ、思わず「えっ」と返す。
「朝も果物だけだったから。普段どれだけ食べるのかは知らないけれど、ちゃんと食べないと身体に毒よ。成長期なんだから」
「えっでも……」
「良いから」
「そんなこと言ってルベル……さんも、私とあまり変わらない……」
「そっちなの!? そしてわたしはこれでも推定20歳よ!」
マジか年上だった……推定、というのが気になるけれど。
「え、えっと……じゃあ、すみません。この『東京風ハンバーグ』……をひとつ」
「わたしは『デリシャスバーガー』を」
「じゃあ、私は『森林マグロのカルパッチョ』で」
「こっちは『海岸ムール貝のオイルづけ』と、あとハイオク」
「レギュラー満タン」
思わず吹き出す。後ろ2つはハイドとAAA3rdの注文だった。
注文が来るまでの間メニュー表を眺めていたけれど、どれも地球にもあるような料理だったり、それでいて和風から洋風まで色々なものを取り揃えていたり、色々と意外な発見が多い。
オラクルは調理技術も優秀らしく、それなりに客でにぎわっているにも関わらず、私たちの注文は比較的すぐに届いた。
東京風ハンバーグは、その名の通り、まさしくどこかのファミレスで注文すれば出て来そうなハンバーグにブロッコリーやニンジンなどの野菜が添えられ、スープと半ライスがついたセットだった。
そしてハイドとAAA3rdの元へは、ホントにガソリンらしきものが、ジョッキ的なソレにたっぷり注がれて運ばれている。正直マジでビビッた。
いきなり食べ始めて良いものかと思案していたけれど、ルベルを見れば速攻ハンバーガーにかぶりついていたので、私もハンバーグにフォークとナイフの先を通す。
肉厚の身は思ったよりもずっと柔らかく、ほとんど抵抗なく切れた。切り口からじゅわりと、たくさんの肉汁が溢れてくる。その見た目と香りに思わず生唾を飲み込んだ。
ハンバーグなんていつ以来だろうか。いや、むしろお店で料理を食べるなんていつ以来だろうか。いつもバイト先の余った弁当や、適当なインスタント食品で済ませていたような記憶しかない。
見るもジューシーな一切れを、気休め程度にふーっと冷まして口へ放り込む。――凄く、すごく美味しい。……インスタントじゃない、温かいご飯を食べたのなんていつ以来だろう。なぜだか、涙腺にまで熱いものがこみ上げる。
「おいしい?」
投げかけられた声に視線を上げると、アルーシュが私の顔を覗き込みながら微笑んでいた。
――そういえば、誰かと一緒にごはんを食べたのも、一体いつ以来だろう。
「その『東京風ハンバーグ』は、アークスの中でも人気が高いんですよ?」
「あら、ホントに美味しそう……わたしも今度頼んでみようかしら」
「そういえば、ルベルはいつもソレ(デリシャスバーガー)ばかりだな。『家主』の影響か?」
「……えっ、ちょっとユカリ、どうしたの急に泣いて!? 何か変なものでも入ってた!?」
「ちっ、ちが……」
自分でもワケが分からず『それ』はとめどなく頬を伝う。なんだこれ、なんだこれは。いったいどうしちゃったんだ、私。
♪
異質な銃声。莫大なフォトンを纏った一射が、稲妻のように東京の空を貫く。青白い光はエルアーダ、プレディガーダ、ディガーダの群れを喰らって、黒い体躯を砕いた。
左目の白い花が特徴的な、黒く丈の短いコートを着込んだアークス・フナは、髑髏を模した異形のアサルトライフル『スカルソーサラー』の銃口をゆっくりと下ろす。
「どんな感じでしたかな」
フナの背後から、小柄な女性型のキャストが声を掛けた。女性型のキャストは青いバイザーや、フォトンの光で構成されたマフラーが特徴的で、口元は黒いマスクで覆い隠されている。
腰から伸びたスタビライザーや左腕のシールドなど機械的な見た目とは裏腹に、和やかな非常に砕けた口調だ。
「……マーミンさん、見ての通りだよ。見た目も動きも、従来のダーカーそのもの」
「しかし『コアが紫色』で『仕留めた時の感触が独特』ですか」
惑星・地球の東京。無数に立ち並ぶビルの、とある屋上で彼女らと『彼』は思案する。
兼ねてより報告されていた『地球に頻発するダーカー』。彼女らと『彼』はその調査と、掃討のために降り立っていた。『フナ』と『マーミン』、そして――。
「――どう思いますかな、『ウィリディス』さん」
Chapter2『脳漿炸裂ガール』End.⇒Next『#3-1』