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小説『Endless story』#2-5

 #2-5【おいしいね、の一言で】

 

 

 

 オラクルを根城とするアークスだって、当然ながら住むし食うし寝るし生きている。

 そんなアークスの食生活を、いわゆる「食堂のおばちゃん」的立ち位置でサポートしていた『フランカ』さんが正式にアークスから認可を受け、かなり大規模な自分のカフェを立ち上げたのはつい最近らしい。

 

「わあ」

 

 ロビーから続くテレポーターを出ると、明るいブラウンを基調とした広い空間へ出た。あちこちに草花が置いてあり、普段のロビーとはまた違う、柔らかな印象に包まれている。

 向こうに見えるのは、市街地のビル群だろうか、開けた場所に作られているようで見晴らしも良い。

 

「あんまり居心地が良いからってね、ここに居座るアークスも少なくないのよ。ハイドも、たまには『ロゼちゃん』と一緒に来てあげなよ」

「そうだな……誕生日も近い事だし、たまには父親らしいことをしたい」

「娘さんがいるんですか?」

「ああ。ちょうど君と同じ位……いや、ロゼの方が少し年上か」

 

 話しながら、ハイドにアルーシュ、AAA3rdらと一緒に適当な座席へと腰掛ける。abe-cは「ワイは別の任務へ向かわなあかんねん。ごめんな、ほなまた今度!」と先に行ってしまった。

 床やテーブルは木製なんだな、と思いテーブルに触れてみると、どことなく単なる木材とはまた違った独特の感触がした。どうやら、こういったものも含めてフォトンで構成されているらしい。

 ルベルの(正確には『家主』の、だが)マイルームでもそうだったけれど、あえてローテクな文化に見た目を寄せるのはオラクルの流行りなのだろうか。

 

「いらっしゃいませ、こちらメニュー表です――……あれ、アル姐とハイドさん、それにあああさんと新人さん」

 

 言われて見上げると、金髪に紫色の瞳、それから背に生えた大きな翼が特徴的な少女。カフェらしいウェイトレスの姿がよく似合っており、非常に可愛らしい。私よりも年下に見える。

 

「とりっぴーだ」

「新人さんは自己紹介がまだでしたね。私は『只野鳥類』、よろしくお願いします」

「ゆ、ユカリです……よろしくお願いします」

 

 只野が苗字で、鳥類が名前だろうか……その、なんというか独特な名前だ。

 

「ちなみに、そんな見た目だけれどとりっぴーはれっきとした男よ」

「ファッ!?」

「さらに言えば余裕の20代です☆」

 

 ちょっと待ってどういうことなの。リアル女子高生の……いや、中退したけれど……私より若々しくて可愛いってどうなってやがる。私も可愛い部類じゃないけれども。

 思えばルベルもアルーシュも整った容姿だし、昨日チームルームで会った女性陣も美人さんばかりだったような。オラクルは魔窟だ。

 

「でも、なんでとりっぴーがここに?」

「ここでバイトをさせて貰っています。副業にとここで勤めているアークスも、少なくはないんですよ。あ、ご注文が決まりましたらどうぞ。ちなみにオススメは『只野鳥類特製冷やしからあげ定食23人前』です!」

「あっえっ、えっと……でもすみません、私いまお金持ってなくて」

 

 なにしろダーカーに襲われてからそのままオラクルへ来たので、コンビニへ多少の買い出しに行く程度の持ち合わせしかない。バイト先を辞めさせられてからというものの、私の金銭事情は一層シビアだった。

 そもそも、オラクルで地球の通貨って使えるんだろうか。

 

「そのぐらい奢るわよ」

 

 ルベルに言われ、思わず「えっ」と返す。

 

「朝も果物だけだったから。普段どれだけ食べるのかは知らないけれど、ちゃんと食べないと身体に毒よ。成長期なんだから」

「えっでも……」

「良いから」

「そんなこと言ってルベル……さんも、私とあまり変わらない……」

「そっちなの!? そしてわたしはこれでも推定20歳よ!」

 

 マジか年上だった……推定、というのが気になるけれど。

 

「え、えっと……じゃあ、すみません。この『東京風ハンバーグ』……をひとつ」

「わたしは『デリシャスバーガー』を」

「じゃあ、私は『森林マグロのカルパッチョ』で」

「こっちは『海岸ムール貝のオイルづけ』と、あとハイオク」

「レギュラー満タン」

 

 思わず吹き出す。後ろ2つはハイドとAAA3rdの注文だった。

 注文が来るまでの間メニュー表を眺めていたけれど、どれも地球にもあるような料理だったり、それでいて和風から洋風まで色々なものを取り揃えていたり、色々と意外な発見が多い。

 

 オラクルは調理技術も優秀らしく、それなりに客でにぎわっているにも関わらず、私たちの注文は比較的すぐに届いた。

 東京風ハンバーグは、その名の通り、まさしくどこかのファミレスで注文すれば出て来そうなハンバーグにブロッコリーやニンジンなどの野菜が添えられ、スープと半ライスがついたセットだった。

 そしてハイドとAAA3rdの元へは、ホントにガソリンらしきものが、ジョッキ的なソレにたっぷり注がれて運ばれている。正直マジでビビッた。

 

 いきなり食べ始めて良いものかと思案していたけれど、ルベルを見れば速攻ハンバーガーにかぶりついていたので、私もハンバーグにフォークとナイフの先を通す。

 肉厚の身は思ったよりもずっと柔らかく、ほとんど抵抗なく切れた。切り口からじゅわりと、たくさんの肉汁が溢れてくる。その見た目と香りに思わず生唾を飲み込んだ。

 

 ハンバーグなんていつ以来だろうか。いや、むしろお店で料理を食べるなんていつ以来だろうか。いつもバイト先の余った弁当や、適当なインスタント食品で済ませていたような記憶しかない。

 

 見るもジューシーな一切れを、気休め程度にふーっと冷まして口へ放り込む。――凄く、すごく美味しい。……インスタントじゃない、温かいご飯を食べたのなんていつ以来だろう。なぜだか、涙腺にまで熱いものがこみ上げる。

 

「おいしい?」

 

 投げかけられた声に視線を上げると、アルーシュが私の顔を覗き込みながら微笑んでいた。

 ――そういえば、誰かと一緒にごはんを食べたのも、一体いつ以来だろう。

 

「その『東京風ハンバーグ』は、アークスの中でも人気が高いんですよ?」

「あら、ホントに美味しそう……わたしも今度頼んでみようかしら」

「そういえば、ルベルはいつもソレ(デリシャスバーガー)ばかりだな。『家主』の影響か?」

「……えっ、ちょっとユカリ、どうしたの急に泣いて!? 何か変なものでも入ってた!?」

「ちっ、ちが……」

 

 自分でもワケが分からず『それ』はとめどなく頬を伝う。なんだこれ、なんだこれは。いったいどうしちゃったんだ、私。

 

 

 

 

 

 

 異質な銃声。莫大なフォトンを纏った一射が、稲妻のように東京の空を貫く。青白い光はエルアーダ、プレディガーダ、ディガーダの群れを喰らって、黒い体躯を砕いた。

 左目の白い花が特徴的な、黒く丈の短いコートを着込んだアークス・フナは、髑髏を模した異形のアサルトライフル『スカルソーサラー』の銃口をゆっくりと下ろす。

 

「どんな感じでしたかな」

 

 フナの背後から、小柄な女性型のキャストが声を掛けた。女性型のキャストは青いバイザーや、フォトンの光で構成されたマフラーが特徴的で、口元は黒いマスクで覆い隠されている。

 腰から伸びたスタビライザーや左腕のシールドなど機械的な見た目とは裏腹に、和やかな非常に砕けた口調だ。

 

「……マーミンさん、見ての通りだよ。見た目も動きも、従来のダーカーそのもの」

「しかし『コアが紫色』で『仕留めた時の感触が独特』ですか」

 

 惑星・地球の東京。無数に立ち並ぶビルの、とある屋上で彼女らと『彼』は思案する。

 兼ねてより報告されていた『地球に頻発するダーカー』。彼女らと『彼』はその調査と、掃討のために降り立っていた。『フナ』と『マーミン』、そして――。

 

「――どう思いますかな、『ウィリディス』さん」

 

 

 

 Chapter2『脳漿炸裂ガール』End.Next『#3-1』

 

 

 

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