小説『Endless story』幕間8
- 2017/05/17 07:36
- カテゴリー:ゲーム, PSO2, 小説, Endless story
- タグ:EndlessStory
- 投稿者:Viridis
今回の更新を担当するViridisです。
二次創作小説『Endless story』を書かせていただいています。
今回はオマケ回というコトですが、恒例の「ぐだらじ☆出張版」ではなく、本編に関わる別の掌編を投稿させていただきます。 本作品も全10章予定のうちもうすぐ9章を迎え、ついに佳境へと突入します。 まだ今しばらく、本作品を見守っていただけたらと思います。 #EX-0 白と灰色と黒、そして青いフォトンラインに、ガラス張りで統一されたデザインの広大なロビー。いかにもといったサイバー風の空間で、私は呆然と立ち尽くしていた。 ここがPSO2の世界なのか。さすが世界中で流行っているオンラインゲームなだけあり、行きかう人々の姿もにぎやかで忙しない。なんだかお祭りみたいだな、と思えた。 まるっきりSFの世界でありながら、どこか強いリアリティーを感じる。それは、人々の中へ溶け込んでいけない私自身にも言えた。 勧められて始めてはみたし、なるほど出来がいいとは思うけれど……果たしていつまで、私はこのゲームを続けられるだろうか、なんてことを既に考えている。 このゲームは惑星調査隊「アークス」の一員になって、宇宙に蔓延る侵略者「ダーカー」を倒して回るというモノらしい。よくあるアクションRPGだ。そのため、私もひとまずはクエストを受注してダーカーを倒しに行かなければならないワケで。 しかし問題があった。広すぎるロビー、どれもこれも初めて見る施設、さらには頼れる仲間もいない。そう……どこからどうやってクエストを受注すればいいのか、分からない。 そもそも受注のやり方、私の武器はどこにあるのか、それをどう扱えばいいのか。右も左も分からないというのは、まさにこういうことを言うのだろう。 おそらく初心者に向けてのチュートリアルをどこかで受けられるのだろうけれど、どこでそれをやっているのかも知らない。 どうすればいいのかも、誰を頼ればいいのかも分からずにロビーを行ったり来たりする。言いようのない焦燥感まで湧き出し、どうしてゲームの中でまでこんな思いをしなければならないのかという気分になってくる。 クラスカウンター、ここは何か違う気がする。隣のチームカウンターでもなさそうだ。称号カウンターに至っては何なのかさえ分からない。反対へ行ったらメディカルセンター、私はまだどこもケガしていない。エレベーターっぽいのに乗ったら、なんか白っぽい場所に出た。武器、防具、コスチューム、どうやらここではいろんなものを売っているようだ。 そうだ、ここで装備を揃えればいいんだ。 しまったお金がない。 半泣きになりながら思わず走り出した。とにかく走って、緩やかな階段のような場所を降りていくと、人気のない静かな開けた場所へ出た。 中央には大きなモニターと白いサークルがあり、その奥に晴れ渡った青空と、遠くにはミニチュアのような市街地、そしてどこまでも広がる海が見えた。 白いサークルの上には誰かが佇んでいた。若い男の人のようで、黒いコートを着ている。 モニターを眺めていた彼は、間もなくこちらに気が付いて振り返った。 「……もしかして新人?」 「えっ……あう、その……えっと……」 不意に声をかけられて、上手く返事することが出来ない。彼は怪訝な顔でこちらを見ていたが、何かを思案するように自らの口許へ手を当てる。 数秒後、彼はおもむろに私の背後……の、ずっと向こう側を指さした。 「クエストカウンターなら反対側だ。テレポーターを通って行くといい」 しばらく内容を理解できずにぽかんとする。少し遅れて、彼が道を教えてくれたのだと気付いた。どうやら、悪い人ではないらしい。 「あっ……ありがとうございます!」 「どういたしまして」 彼は素っ気なくそれだけ言うと、またふいとモニターの方へ視線を戻した。 私も言われた通りにテレポーターとやらを通ってクエストカウンターへ向かおうとする。しかしそこではたと足を止める。いつまで経っても歩き出さない私を不審に思ったのか、彼はまたこちらを向いた。 「どうかしたの?」 「……テレポーターって何でしょう……?」 震える声で尋ねる私、目を丸くする彼、しばらくの静寂。 何かマズいことを聞いてしまっただろうか。信じられないものでも見るような眼差し。 「マジで?」 「マジです」 再び彼は思案するように、口許へ手を当てた。マズいことを聞いてしまっただろうかと輪をかけて不安になる私をよそに、彼は「……そういうコトもあるのかな……漂流者?」などと独り言を呟いている。 それから彼はひとり納得したように頷いて、私の方へ歩み寄る。 「分かった、クエストカウンターまで連れて行こう。俺も用があったんだ」 「えっはわっえっ?」 「えっ嫌だった?」 「い、嫌とかじゃなくて……あ、ありがとうございます!?」 「なんでちょっと疑問形なの」 早速行こうとでも言わんばかりに歩き出す彼と、慌ててそのあとを追う私。突然のことに若干戸惑いながらも、小走りで大きな歩幅の彼についていく。 なんてことはない、さっき私が通ったエレベーターのようなものがテレポーターだった。少し考えれば分かりそうなものなのに、自分がいかに慌てていたのか恥ずかしくなる。 クエストカウンターはテレポーターを出た先にあった。こちらもそれと分かればすぐに覚えられそうな、大きなカウンターだ。 「ここまでありがとうございました!」 私を案内した彼は、返事の代わりにひらひらと手を振る。彼が踵を返して立ち去る前に、私はもうひとつ声を張り上げていた。それがどうしてだったのかは、今でも分からない。 ただ、少しだけ嬉しかったのかもしれない。ゲームとはいえ見ず知らずの人から親切にされたという事実に、少しだけ浮かれていたのかもしれない。 「あの……名前、聞いても良いですか!?」 だから私は、彼の名前を尋ねた。 彼は歩みを止め、またこちらを振り返る。黒髪黒目で、しかし右目だけが緑色のオッドアイが特徴的だと思った。彼は不愛想に、端的に、自分の名前を告げる。 「……――ウィリディス」 彼が指令を受けて、私の初めてのクエストに同行するのは、それからたった一時間後のことだ。 この日からしばらくの間、私は彼と共にアークスとして過ごした。 それは、まだ私がオラクルの実在を知らなかった頃の話。 【Character file:Chapter8】 Name:溟砂 年齢不明(推定36歳程度)/♂ (By月砂) ダーカーズフォールコーポレーション、もしくはダークファルスコーポレーション(以下DFco.)を取り仕切る若き社長にして、ダークファルス。 通称「社長」と呼ばれることが多く、実は溟砂という名さえも偽名。その出生や経歴には不明な部分が多く、また資料もほとんど残されていない。 紫銀の長髪を後ろでひとつに束ねた、アスリート体型で精悍な面構えの男性。 生きることに対して独自の価値観を持ち、そのため「労働すること」に強く執着する。 戦闘ではダークファルスらしい卓越した身体能力と、自ら生成した「黒い牙」で圧倒的な機動力・破壊力を見せつける。 Like:ウォルターウルフ(タバコの銘柄)。 Name:アルーシュ=アステリスク 32歳/♀ (Byしる姉) DFco.の社長秘書であり、ある異世界からの来訪者でもある。 桃色の長髪に薄荷色の瞳が特徴的な美女。スタイルも良く、モデルなどの副業を請け負うこともある。聖職者だった過去と、高級娼婦という裏の顔を併せ持つ。 一児の母であり、数年前にダークファルス【巨躯】の襲撃で生き別れとなった夫を探す為アークスになった。母親らしく面倒見が良い性格だが、一方で積極的に下ネタを飛ばしていく豪放磊落な一面も併せ持つ。 アークスとしてはテクニックが得意で、味方の強化・回復をメインとしてサポートを行う。 Love:夫、子供、社長。 Name:ホール 年齢不明(推定20代後半)/♂ (Byパイセン) DFco.の営業部長であり、リシアという一人娘を溺愛している。 燃えるような赤い髪と瞳がトレードマークで、体格は筋肉質。DFco.の中では唯一れっきとした「普通の人間」でありながらも、過酷な業務を全うしている。 年相応の落ち着きを見せながらも、熱いハートを持った好青年。 無類のギャンブル好きで、会社の金を使い込みパチンコに興じているなどの姿もしばしばみられるようだ。そのたびに有給を減らされ、現在はマイナスまで食い込んでいる。 アークスとしては近接戦闘が得意で、ファイターとして切り込み隊長を務める。 Like:リリーパ族。 Name:クラリス 年齢不明/♀? (Byラメさん) DFco.の経理部長であるが、その正体は謎に包まれている。 普段は白髪をお団子状にまとめた小柄な少女の姿をしているが、いわく外見は変幻自在、影と自身を同化させ離れた距離を移動するなどの離れ業もやってのけるという。 #1-5で登場した紫色の髪の女性も、まぎれもなく彼女自身である。 飄々とした性格の皮肉好きで、エセ中国語じみた独特の語尾が特徴。 一般的な経理の業務全般の他、DFco.に関わる汚れ仕事や隠蔽工作なども一手に引き受けているというが、その真偽すらも定かではない。 アークスとしての得意分野は不明だが、戦闘においては主に暗器の扱いを得意とする。 Trademark:扇子。