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小説『Endless story』#7-3

 #7-3【何も無いなら、どうなったっていいだろう】

 

 

 

「私は本気ですよ」

 

 その言葉は、口を衝いてぽつりと零れていた。

 

「確かに、出会って日も浅いけれど……何かあったらすぐ折れて、だから軽々しく殺して、なんて頼むほど、私は軽薄に見えますか」

 

 そんなニュアンスで、ただ同情を誘うための言葉だったと思われるのなら、この上なく心外だ。最初っから同情なんて求めてないんだ。

 誰かに慰められたって、現実に起こっている何も変わるワケじゃないんだから。

 

「ロゼが消えたのも、貴女が大怪我を負ったのも私のせいかもしれなくて。しかもそれを裏付けるように、私の身体はどう見たって『普通の人間』じゃない」

 

 次は誰がどうなるのか。

 アークスとして働いている人たちは、戦っている人たちは、きっと命がけで、死と生のはざまで日々を乗り越えている。きっとそれを覚悟の上で戦線に立っている。

 でも、それとリスクを看過することは全く別だろう。だったらこんな得体の知れない、利用価値もない、まるで爆弾のような私なんて、早くどうにかしてしまうべきだろう。

 

 オラクルで出会った人たちは、みんな底抜けに良い人で。素性も知れない私をあっさりと、その輪の中に受け入れてくれて。何もかもが初めての体験で、不思議で、どうやって言い表せばいいのか分からないほどに温かくて。

 でも私のせいでそれが欠けてしまうというのならば、私はそこに居なくていい。

 

「だから、私なんてどうなったって良いから――……」

 

 言いかけて、途切れて、不意に、ルベルが私の胸倉をつかんで、顔をすぐ近くまで引き寄せた。紅い瞳がまっすぐにこちらを射抜くように見つめる。

 ……――こんなに近くで、誰かと真っ直ぐに向き合ったことなんてあっただろうか。

 

「だから、それが軽薄だって言ってんのよ!」

 

 閑散としていたチームルームに、ルベルの鋭い声が響く。

 

「そんなに嫌だったのかしら。そんなにこの場所がお気に召さなかったのかしら。そんなに嫌な人たちばかりだったかしら。そうまでして、自分から居なくなりたいほどに?」

「そんなことは言ってませんよ!」

 

 ここへ来たばかりの頃も、戦闘訓練の時も、ごはんを食べさせてもらった時も、ひどく落ち込んでいたところへ、友達になろうって声をかけてくれた時も。ひとつも不満なんてあったものか。

 ここへ来てからのすべてに、気に入らないことなんてあったものか。

 

「居なくなりたい、なんて思わなくて済むのなら、思いたくありません!」

「それが本心でしょ!?」

 

 思わず、ルベルの両肩に掴みかかっていた。自分でも驚くほどに大きな声が出た。憤りなのか何なのか、気持ちが昂って涙腺が熱くなってゆく。指も声も少し震えていた。自分でも今まで、考えもしなかった――あるいは考えようとしなかった言葉が飛び出していた。

 でも。

 

「でも、誰かが欠けるくらいなら、私だけでいい! 誰かの居場所を奪ってまで、そこに居座りたいだなんて思わない! お母さんにも、誰にも、必要とされなかった私が居なくなったって――……」

 

 あんまり声が震えて、泣きそうになって、うまく喋れなくなって、自分の両手がルベルの両肩から腕へ力なくずり落ちていく。

 

「……――誰も、困らないんだから……」

 

 とうとう涙を堪え切れなくなって、必死で両の手の平を押し付けて拭おうとする。

 そう、私が居なくなったって誰も困らないんだから、何も問題ないじゃないか。

 生きていたって「どうして自分は生まれてきたんだろう」って自分を責めるばかりで、本当のところは、たとえ私が全ての原因だったとしても、そうじゃなかったとしても……ここで全部終わらせてくれるのなら、願ったり叶ったりだ。

 

 

 

「あなたが居なくなったら、わたしたちが困る!」

 

 しかしルベルは、あくまで私の言葉を斬って捨てるように言い放つ。

 ルベルの顔を見上げると、その瞳には、確かに「私」が映っていた。

 

 

 

「あなたを『仲間』としてじゃなく『捕虜』として幽閉するのも、なんならここで斬ってしまうのも簡単よ。ウィリディスだってあなたを見殺しにすることも出来たわ」

「じゃあ、いっそここで――……!」

「わたしもウィリディスも、そうしないのは! あなたをみすみす死なせれば、これから先ずっとそれを、傷跡として背負っていくことになってしまうからよ!」

「だからって、他の人が身代わりになっていい理由にはならない!」

「だからって、諦める理由にもならないわ! ロゼがどこへ消えたのかも、何が起こっているのかも分からないうちから、どうして結論を急ぐの!?」

「だって、それで全て済めば……」

「何もかも不確かなうちから、手っ取り早そうな答えに飛び付かないで!」

 

 そんなことを言われたって、分からない。

 だって、こうすれば早いじゃないか、だって……。

 

「だって、私なんてここに来たばかりで、きっと誰からも何も思われてなくて……」

「それをアリシアの前でも、他のメンバーの前でも同じように言えるの?」

 

 一瞬、言葉に詰まる。

 ふと脳裏に、一緒にファッションカタログを見て笑いあったアリシアの姿が浮かんだ。

 

「みんなと居たい、誰1人として欠けてほしくない。どちらも本心なんでしょう?」

 

 ここへ来て初めての日に、大勢で私を出迎えたみんなの姿を思い出した。

 カフェでみんなとごはんを食べたときに、笑いかけてきたアルーシュの顔を思い出した。

 ナーシャとの訓練は苦しくも、合間の休憩で浮かべる彼女の笑顔がとても優しかった。

 先陣を切って意気揚々と敵の軍勢へ飛び込んでいく、カナトの背中が頼もしかった。

 私を心配してマイルームまで持ってきてくれた、白狐のお弁当はおいしかった。

 みんなで凍土へ行ったギャザリングは、本当に楽しかった。

 後から後から零れて止まらない涙を拭いながら、私は小さく頷く。

 そして頷いた私を見て、一瞬だけルベルが優しく微笑んだのは、気のせいだろうか。

 

「……――だったら、諦めないで考え抜きなさい。目を背けずに、起きている現実と向き合いなさい。両方とも叶う未来を、自分の意志で勝ち取ってみせなさい」

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