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小説『Endless story』#7-2

 #7-2【黒い鉄格子のなかで、私は生まれてきたんだ】

 

 

 

 6枚の翼を広げた怪物は、規格外のプレッシャーを放っている。怪物は黒い鎧で全身を覆う、紅い悪魔のような様相。左胸には、より鮮やかな紅いコアが煌々と輝いていた。

  黒い雨が間断なく降り続け、空は禍々しく分厚い真紅の雲で覆われている。

  この怪物が――ダークファルス・ステラが、辺りに広がるダーカー因子の濃度を操り、黒い雨を降らせているのだ。

 

 ダークファルス・ステラは、長大な黒い剣を横に薙ぎ払う。黒い樹も瓦礫も何もかも、ダーカーの巣窟に在るすべてを、暴風のように巻き込んで破壊する。薙ぎ払われたあとは、幾つもの紅い槍が地面から天に向かって突き上がる。

 立て続けに、上から振り下ろされる一撃。とてつもない衝撃は、ダーカーの巣窟全体を駆け抜けて大きく揺らす。伝播する衝撃波はその瞬間に幾つもの紅い腕となって化ける。

 

 しかし剣戟の暴風圏を駆け抜け。紅い槍を躱し。さらに続く一撃も。無数に襲い掛かる紅い腕も縫うように掻い潜る。巨凶を前にして一片も臆さず。ひたすらに前へと突き進む。

 続いて放たれる、膨大な質量を伴った怪物の突き――をも「彼」は跳んで避けて見せた。伸びきったダークファルス・ステラの腕さえ足場にして。「彼」は尚も疾走する。その手にナノトランサーで喚び出した武器を携えながら。

 

 ただ1人で巨大な災禍と対峙している「彼」は、緑色の右目が特徴的な青年だった。

 

 

 

 

 

 

 

「虚空機関の、ある研究施設で人工的に造られたダークファルス。それがわたしよ」

「ダークファルス……」

  

 アークスという存在にとって、不倶戴天の敵であるダーカー。そしてそれらを統べる、いわばダーカーたちの王たる存在――それが『ダークファルス』だ。

 そして目の前に居る、ルベル自身こそが、ダークファルスの1体そのものであるという。突然な、そして衝撃的な告白に私は言葉を失っていた。

 

「……とは言っても、それ自体は別に珍しくないんだけどネェ」

「えっそうなんですか」

「ここだけの話、他にもダークファルスとか、挙句そのダークファルスが立ち上げた企業なんていうモノまであったりするワヨ」

「どういうことなの」

「……話、続けていいかしら?」

 

 改めてルベルに向き直る。

 ルベルの話によれば、彼女は物心ついた頃から『ステラ』という名前で虚空機関の研究施設に囚われていたらしい。

 人為的にダークファルスを生み出すという、極秘裏に進められた実験の被験者として。

 しかし、彼女が居た研究施設に『ウィリディス』という……今では彼女やアーテルから『家主』と呼ばれている青年が身ひとつで乗り込み、これを壊滅させる。

 

 研究施設から連れ出され、保護された彼女はウィリディスの私宅で過ごすことになった(家主という呼び名は、この辺りの事情に由来するようだ)。現在の『ルベル』という名前も、ウィリディスに名付けられたらしい。

 しかしルーサーの失脚と虚空機関の解体に伴い、研究施設の元主任だった『ニウェウス』博士が暗躍を始め、彼の企みによりルベルは一度『ダークファルス・ステラ』として完全に覚醒を遂げてしまう。

 

 その後は結論から言えば、ウィリディスがダーカーの巣窟で、ダークファルスへと変貌してしまった彼女を、また首謀者であるニウェウスを撃破した。

 最終的にルベルは、自らの意思で自身の中のダークファルス・ステラを抑え込むことに成功する。そしてウィリディスが彼女の監視役になるという条件の下で、オラクルに住むことを……アークスとして生きることを許された。

 

「その後は知っての通り。今わたしはこうして、世界群歩行者達の1人として戦っている」

「ホント、あの頃に比べれば今って落ち着いているわよネェ……」

 

 アーテルは呑気に言っているが、それって本当に大丈夫なのだろうか。

 

「万が一ってことがあった時には、ウィリディスがわたしを叩き斬る手筈になっているわ」

 

 いつぞやの、カナトとルベルが交わしていた会話の意味を、ようやく理解した。

 

「で……でも、それって」

「だから心配しないで頂戴って言っているの。あなたの正体がどうあっても、今更揺らぐアークスじゃないわ」

 

 ルベルが、私の言葉を遮る。

 透き通った宝玉のような左目と、闇夜に浮かぶ赤い月を思わせる右目……対照的な印象を与える双眸は、しかし力強い決意で満たされていた。

 

「あなたはさっき、このままでは他の人まで同じような目に遭うかもしれないから、そうなる前に殺してほしい――とでも言おうとしたのでしょ?」

 

 見事に当てられて、言葉を詰まらせる。

 ルベルはやっぱり、とでも言いたげにため息を吐いたが……それが一番良いように思う。

 私にいったい何が起こっているのか、いったい何に巻き込まれているのかは分からない。けれど実際にロゼは私の目の前で消えて、ダーク・ビブラスと言えばルベルもあれのせいで大怪我を負ったのだ。

 もしも、また何かがあったらどうする。それこそアークスシップの中で大型のダーカーや、ダークファルスでも出てきてしまったら。

 次は誰を傷つけることになる。ルベルか、アルトか、アルーシュか、アリシアか……。オラクルで出会った人たちは、みんな底抜けにいい人たちだった。

 でも、だからこそ傷つけたくない。だからこそ、どうしようもないほどに不安が募る。

 だからこそ、どうせなら、価値のない自分の命がなくなってしまえば、と、考えて――……。

 

「軽々しく死のうなんて考えるモノでもないし、言うモノでもないわよ、まったく……」

 

 ……――どうやら、ルベルのその一言で。

 

「……軽々しく、なんて……」

 

 私の中の何かが決壊したらしかった。

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