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小説『Endless story』#7-1

#7-1【核融合炉にさ、飛び込んでみたいと思う】

 

 

 

 かつて虚空機関を統括していた『ルーサー』の正体にして、ありとあらゆる知識を渇望するダークファルスの一角【敗者(ルーサー)】。ロゼがその化身『ファルス・アンゲル』へと変貌し、そのまま姿を消した翌日。

 突如として反応が消えてしまったコト、何よりもダーカーの巣窟という場所の特性から捜索は早々に打ち切られた。むろん消えてしまったロゼの姿はどこにも見当たらないまま。

 

 その後もハイドは単独、かつ半ば強引に、ダーカーの巣窟があった近辺の宙域を捜索に向かっている。しかし彼女の姿どころか、崩落してしまったダーカーの巣窟の面影すらも見当たらないらしい。

 ルベルと私も同行を志願したが、私は身体への影響を懸念されて、ルベルは私の監視役として、出撃を止められた。

 

「……なんて顔してるのよ」

 

 出撃申請が下りず「今は休息を取るように」と言いつけられた私たちは、チームルームの一角で並んでベンチに座っていた。

 ルベルはどうやら寝ていないらしく目元に深いクマが出来ており、白い肌のせいかそれが余計に目立っている。

 そういう私もきっと今、ルベルから見たら余程ひどい表情をしているのだろう。

 

「私のせいかもしれません」

 

 あの時、ロゼが消えた瞬間、私は私が言った言葉を……「あなたにしよう」という言葉を覚えている。次の瞬間に、ロゼは青紫色の闇に囚われファルス・アンゲルへと変貌した。

 こればかりは、もう偶然などと思えない。

 かと言ってロゼがどうしてファルス・アンゲルになってしまったのか、その直後にどこへ行ってしまったのかさえも分からない。

 いったい私に何が起きていて、私は何をしでかしてしまったのか。

 

「あなたのせいと決まったワケでもないわ」

「でも、今思えば……あのダーク・ビブラスだって、私のせいで現れたんじゃないですか?」

 

 そう、少し前にいきなり市街地で遭遇した、紫色のコアのダーク・ビブラス。

 そして昨日ロゼが化けたファルス・アンゲル……いずれも紫色のコアを持っていた。

 

「ダーク・ビブラスの出現は、想定外だって言っていましたよね」

 

 それも自分のせいだったと考えれば、すべて合点がいく。

 これだけ判断材料も揃っていて不可解なことが続いているなら、まず真っ先に私を疑うべきだと、私自身にだって分かる。

 まして私は記憶も一部分を失っていて、その上に、おそらく普通の人間ではない。

 

「昨日、戦闘中に少しだけ傷を負ったんです」

 

 その時に、ある違和感を覚えて、そして気付いた。

 傷を負ったこと自体に問題があるワケじゃない。アルトが用意してくれたコスチュームでカバーしきれない、頬に軽いかすり傷を受けただけだ。

 問題は、その傷がすぐに治ったこと、そして。

 

「ちょっと、ユカリあなた何をして……!」

 

 おもむろにヤミガラスを取り出して、自分へと刃を向けた私に驚いたのだろう。

 ルベルは声を荒げるが、私はその刃で……――自分の右の手の平を、軽く切った。

 

 

 

 傷口からは血の代わりに青い粒子と、光るキューブ状の物質が出現と消失を繰り返す。

 そして間もなく、傷口は塞がって消えた。

 

 

 

 今思えば、アルトが私のために特注のコスチュームを用意したのも、それまで戦闘訓練ばかり繰り返したのも、私自身がこれに気付かないようにするためだったのではないか。

 つまり「私はただの人間ではない」と、私自身が気付かないようにするため。

 だとすれば、彼女たちはそれらを知っていて、隠していたことになる。

 

「知っていて、黙っていたんですか?」

「……オラクルへ来たばかりで混乱しているあなたに、要らない不安を負わせないためよ」

「違います、私が言いたいのはそういうコトじゃないんです」

 

 伏し目がちに弁解するルベルの顔を見ながら、私は言う。自分でも声が少しだけ震えていると分かった。

 私は人間じゃなくて、おそらく私のせいで「何か」が起こっていて、ロゼもそれに巻き込まれて消えてしまって。だとすれば、渦中の私を、原因の私を野放しにしておくなんて。

 しかもこの期に及んでルベルたちは、私をどうしようともしない。

 

「私のせいなら、早く私を何もできないようどこかへ閉じ込めて監視するか……いっそ」

 

 処分してしまえば……――殺してしまえばいい、と言いかけたところで。

 

「団長サンや家主クン、社長サンにも何か考えがあるみたいなのよネェ。いずれにしても、それはルベルやアタシたちだけで勝手に決められるコトじゃないワァ」

 

 口調のわりに野太い、どこかねっとりとした声が聞こえる。

 振り向いてみれば、金髪を流した長身の男性が居た。黒いシャツとスラックスパンツの上から、和風の意匠を凝らした、着物とコートの中間みたいな服を羽織っている。

 目元にはティアドロップのサングラスをかけていて、口元は黒いリップが塗られていた。

 

「あなたは?」

「ハジメマシテ、ルベルと家主クンから話は聞いているワ。アタシはアーテル。情報屋とファッションデザイナーを兼任しているノ」

 

 長身の『アーテル』と名乗る男(?)は、口元を少し緩めながら名乗った。

 

「兼ねていると言えば、家主クンと一緒にそのコ……ルベルの中に居る『ステラ』の監視も担っているワ。もっとも今、家主クンは地球へ出張っているけれど」

「ステラ……?」

 

 聞いたことがあるような気もないような気もするけれど……思い出した、前にダーク・ビブラスと対面したとき、カナトとルベルとの会話で出てきた単語だ。

 私の反応を見てアーテルは「アラ、まだ話してなかったのね」とルベルに言い、ルベルも軽くうなずいて、改めて私の方へ向き直る。

 

「ちょうどいい機会だからユカリ、あなたにも話しておくわね」

 

 ルベルはそう言うなり、自らの眼帯に手をかけた。

 黒い眼帯が外されると、隠されていた彼女の左目が……――いびつな印象を与える左目が露わになる。まるで闇夜に浮かぶ赤い月のように、本来なら白目であるべき部分が漆黒に染まっており、瞳はルビーやガーネットのような紅色を湛えながらもどこか虚ろだ。

 目の上下には鋭い切り傷の痕が走っていた。

 

「わたしの正体はね――【明星(ステラ)】という名前の、ダークファルスなのよ」

 

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