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小説『Endless story』#6-4

 #6-4【ハイド・クラウゼン】

 

 

 

 

 家族と過ごす、当たり前の日常とは素晴らしいモノだ。

 仕事を終え、家に帰れば妻と娘に出迎えられ、一緒に夕食を食べる。食後は娘と戯れ、遊び疲れて娘が眠ったら妻と過ごし、次の日の仕事に備え就寝する。

 休日には家族と共に1日を過ごして、身体を休める。

 そんな、どこにでもあるごく普通の日常。

 

 

 その血の臭いは、やはり自宅へ近づくほどに濃くなっていく。

 そして俺が家に着くと、嫌な「予感」は「現実」になっていた。家の前に広がっているのは真っ赤な血だまり。その周りを今まで見たこともない、翼を持つ鳥のようなダーカーが囲んでいる。

 血だまりの真ん中には――……。

 

「ツバキ……?」

 

 ……――妻が、ツバキが横たわっていた。

 

 

「なんだ、これ……?」

 

 数秒前まで俺の下半身「だったモノ」が、上半身から切り離されて、血を垂らしながら転がっていた。

 こんなに呆気なく死ぬのか、俺は。

 痛みはまるで感じない……と、いうより、身体の感覚が無くなってきている。

 朦朧としていく意識の中、ツバキの方を見ると、その傍らには6枚の大きな翼を携えた、単なるダーカーとは比べ物にならないプレッシャーを放つ化け物。

 コイツか。コイツが、ツバキを手にかけたのか。

 

 

 これほどの怪物を放置すれば、俺やツバキだけでなく、ロゼの命まで脅かされてしまうかもしれない。

 

「それだけは……――絶対に許すワケには、いかねぇんだよ!」

 

 残っているありったけのフォトンを、長銃の弾倉へと注ぎ込む。許容量を大幅に超えたフォトンは火花を散らす。

 壊れようが、この一射に全てを集約する。照準を「そいつ」に合わせ、トリガーに指をかける。狙うは腹部の赤いコア。

 最期の悪あがきってヤツだ、存分に味わいな。

 トリガーを引いた瞬間、銃口から圧縮されたフォトンの弾丸が放たれる。青白い閃光は、周りのすべてを照らして吞み込んで――。

 

 

「これが……俺、なのか?」

 

 きれいに磨かれている小窓が映し出した俺の姿は、どう見ても機械の身体――つまり、キャストの姿だった。

 

 

「それもやらねばならんのじゃが、まずはアークスに登録し直すための……新たな名前が必要じゃないかね」

「名前……か」

 

 どうしたものか。唐突に言われても思い浮かばず、部屋を見渡すと、鏡に映った自分のとある箇所に目が留まった。そこには「H.I.D.E.」と書かれている。

 

「これは?」

「それは、ワシが研究しているキャストボディに搭載している、新システムの名称じゃよ」

 

 Hybrid Idealbody Dualform Exchanger、その頭文字をとって略称「H.I.D.E.」。大気中に漂っているフォトンを特殊な装置で物質へ変換し、より強靭で軽量なボディと形作るというコンセプトのもとに開発したらしい。

 

H.I.D.E.……ハイド、か」

 

 

 ……――ハイド・クラウゼンとは、高い戦闘能力を持ちながらも「ファルス・アンゲル」の襲撃によって妻と半身を失いながらも生き延び、身体を機械化したキャストである。

 残された娘の「ロゼ」までも虚空機関に実験体として囚われ、だからこそ彼は救い出すため、護るため、ひと時も研鑽を欠かさなかった。

 

 

 

 

 凶刃がロゼたちに迫る直前、無数の蒼い流星が降り注ぐ。

 流星は闇を切り裂いて、ダガン、ダガッチャ、ダーガッシュ、カルターゴ、ブリアーダ、キュクロナーダ、サイクロネーダ、クラバーダ、エル・アーダ、ティラルーダ、ブリュンダール、リューダソーサラー……――数多のダーカーを区別なく穿ち喰らい尽くす。

 

「これは……」

「パラレルスライダー・零式!?」

 

 長銃系の武器で扱えるフォトンアーツ「パラレルスライダー」、その改良技。しかし凡百のアークスが同じように撃ち放ったとて、ここまでの制圧力は出せない。

 ロゼが知る限りこれほどのダーカーを、このフォトンアーツで一掃できる男は1人だけ。

 重い音を鳴らし、降り立ったのはキャストだった。黒く鈍く光る武骨なボディに、青いフォトンカラーのライン、そして銀色の仮面。

 

「……――間に合ったようだな、ロゼ」

「お父さん!」

 

 ハイドが、未だ残るダーカーの軍勢へと向き直る。

 

「有り得ないわ……! あれだけの数を一瞬、で」

 

 ルベルの模倣体が放った言葉は、しかしそこで遮られる。胸は白刃で貫かれていた。

 

「戦闘中に隙を見せるなって、ウィリディスから教わらなかったのかしら」

 

 切っ先が払われ、紛い物は断末魔も上げずに赤黒い霧と消えていく。

 間髪入れずにロゼの模倣体がルベルへ襲い掛かるが、淡い紫の一閃がその背を裂いた。ユカリがグレンテッセンを使い、背後へ回り込んだのだ。

 

「今度はナーシャみたいな動きをするのね」

 

 ルベルがボソリと呟くが、しかし虚ろな表情のユカリは応じない。

 ロゼの模倣体も同じように赤黒い霧になって、呆気なく散った。

 これで模倣体を2体、ダーカーの軍勢を半数ほど。形勢に光明が差したとは言え、状況はいまだに厳しい。

 更に、空中から影。新たに2つの影が落ちる。影は地面を踏み鳴らして降り立つ。……――影の正体は、トーテムポールを連想させる大型ダーカー「デコル・マリューダ」と、槍と抜剣を携えた4脚4手の大型ダーカー「ブリュー・リンガーダ」。

 唐突な強敵の到来に改めてロゼはノクスサジェフスを、ユカリはヤミガラスを、ルベルはローズオブマタドールを構え直す。

 しかし3人の間からハイドが進み出た。手に持っていた長銃は納めており、青いリングにいくつかのビットが装着された武装を背負っている。

 

「お前たちダーカーに言葉が通じるかは知らんが……俺の娘と、その友達に手は出させん」

 

 青いリングが砕けた。

 複数のビットはそれぞれ連結・合体し、2挺の武器を……――双機銃を形作る。

 そして彼はあくまでも静かに、しかし、はっきりと熱の篭った低い声で宣言した。

 

「オービットシステム・展開。ハイド・クラウゼン、これより敵勢力の殲滅を始める」

 

 

※今回更新分を執筆するにあたって、Hyde氏の短編から一部を引用しました。許可をくださったHyde氏に、この場を借りてお礼を申し上げます。

 

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