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小説『Endless story』#6-2

 #6-2【終わらないこの夜から、目を逸らさずに】

 

 

 

 目を覚ますと、黒い瓦礫を無理やり押し込めて、固めたような光景が広がっていた。

 血のように赤い沼や青白い水晶、黒く細い樹などが点在している。まるで統一性のない景色は、禍々しい雰囲気と相まって余計いびつに映った。

 肌を突き刺すような瘴気と、得体のしれないプレッシャーがそこかしこに充満している。見上げれば深い緑青色の空を、巨大な墓石みたいな街並み……の残骸が貫いていた。

 初めて見る景色だが、すぐに確信する。闇と悪意とで形成された神出鬼没のコロニー。名だたる歴戦の勇士たちが命を散らした、アークスの墓場。ここはおそらく話に聞く――通称「ダーカーの巣窟」だ。

 

「あ……起きましたか?」

 

 私の目覚めに気付いて、ユカリが顔を覗き込んできた。こちらの無事と、身体に大きな異変がないことを確認するとユカリは安堵したようにため息をつく。おそらくはユカリも特に問題は無いのだろう、少し安心した。

 周りを見渡すと、少し離れた場所にルベルも居る。どうやら彼女も無事だったらしく、見張りなのか現状確認なのか周囲を見渡しているようだ。

 しかしお父さんの姿だけが見当たらない。私たち3人がこうして何事もない以上、あの人の身に何かあったとは考えにくいが。

 ユカリがルベルを呼ぶと、彼女はそれに応じて素早くこちらへ駆け寄ってきた。

 

「ロゼも目を覚ましたのね。それじゃ、改めて現状を確認しましょう」

 

 ルベルによれば、私たちが乗っていたキャンプシップは、ここダーカーの巣窟の異常な重力場に引き寄せられて墜落したらしい。その際に重力のせいかダーカーの襲撃なのか、キャンプシップは2つに分裂し、お父さんと私たち3人で分断されてしまったとのコトだ。

 衝撃で吹き飛ばされ、キャンプシップの天井に打ち付けられた私はユカリの手を握ったまま気絶し、現在に至ると言うワケらしい。

 別行動となってしまったお父さんの安否は気になるが、今は気にしても仕方ないだろう。気にしても仕方ないのだが。

 

「心配しなくても、ハイドさんはそう簡単に倒れるタマじゃないわよ」

 

 自分に言い聞かせても、どうやら顔に出てしまっていたらしい。

 

「でも、これからどうしましょうか……」

『ご心配には及ばないにゃん』

  

 いきなり聞き覚えのある声が、どこからか……ユカリの方から聞こえてきて、私たちは3人とも一斉にビクッと身体を強張らせる。独特の語尾は聞き間違えようもない、アルトの声だ。

 ユカリの戦闘服の腕に備え付けられた、モニター部分から聞こえているようだ。

 

「えっちょ……ええっ?」

「その服、そんな機能もあったのね……」

DFCo(ダーカーフォールコーポレーション)謹製の特殊戦闘服にゃあ。ダーカーの巣窟がもたらす瘴気も異常磁気も何のその、ばっちり通信はつながっているにゃよ』

 

 それはアークスで正式に採用されている、各種通信機器の性能を超えていないだろうか。言っても「あの会社」のコトだし、今更って感じもあるので黙っておいた。

 

『状況は把握したにゃあ。そっちの様子と座標も、こっちでモニタリングしているにゃ。今から救援を向かわせるから、合流ポイントまで移動してくれにゃん』

「お父さん……ハイドは?」

 

『ご心配には及ばず、向こうも無事だにゃ。すでに合流ポイントへ向かって移動を始めているにゃあ』

 

 お父さんが無事と聞いて、思わず胸を撫で下ろす。

 ひとまず私たちは、アルトが指示した救援ポイントへ行くことにした。救援が直接この場へ来ないのは、1つ目にダーカーの巣窟へ近づかなければいけない関係上、出来るだけ重力場の影響を受けにくいポイントへキャンプシップを待機させなければならないから。

 2つ目はここで待機しダーカーに囲まれた場合、救援が来るまで凌ぎ続けるのは難しいからだ。どのみち「ダーカー因子の薄い場所」へ移動する必要があった。

 ルベルも今は「ステラ」の力を無闇に使えない。もしルベルの意識が乗っ取られた場合、彼女を殺す人間が――ウィリディスさんが居ないからだ。

 

 私、ルベル、ユカリは並び立って、高台から景観を一望する。これから比較的ダーカーの影響が少ない場所へ移動するにしても、ここは巣窟であるから当然、普段よりも圧倒的に大量のダーカーと交戦は免れない。

 フォーメーションはこうだ。ルベルが先陣に立って活路を切り開き、私はルベルに続きながらユカリをフォローする。道中は中型や大型のダーカーと遭遇する危険もあるため、その場合はルベルと私が矢面に立って敵と相対。

 アークスになってもう2年ほども経つが、ダーカーの巣窟なんて場所へ巻き込まれるのはこれが初めてであり、しかも自分の後輩とも言える人物……ユカリをフォローしながらの行動になるとは思わなかった。

 しかし、ユカリは不安げな表情をしている。突然起きた異変、さらに巻き込まれた場所がダーカーの巣窟。そして何より、彼女はつい最近まで戦闘の何も知らなかった、私よりも年下の少女なのだ。

 無理もない、だから――……。

 

「大丈夫、私が守るからね」

 

 そっと頭に手を置いて、落ち着かせてあげられるように、出来るだけ優しく声をかけた。

 かくして、私たちの脱出劇は始まる。

 

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