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小説『Endless story』#4-5

 #4-5【カナト・ルズイス

 

 

 

 あの球体が起爆する前に、なんとか処理しなければと思った。

 思ったというよりも。

「そうしなければならない」

 という観念に駆られた。

「脚にフォトンを込めて……」

 地面を踏みつける瞬間と同時に放つように。

「体は軽やかに」

 勢いは殺さずひたすら前に。

「前に」

 前に。

 身体の動きは最小限に、フォトンの力と慣性を最大限に利用して。

 これはナーシャが使っていた歩法だ。

 

 すぐに爆弾まで辿り着いた私は、駆け抜けた勢いを利用して、ヤミガラスを爆弾に突き立てる。しかし刃は弾かれ、その表面にはキズひとつも付いていない。

「生半可な攻撃じゃ……」

 ダメみたいだ。

 ならば、とヤミガラスを構え直した。

 そしてフォトンを切っ先に込めて、思い切り振り抜く。 

「『ハトウリンドウ』」

 何度も。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 激流のようなフォトンを叩き付け、浴びせ掛け、畳みかける。

「私は……」

 認めてもらわなきゃならない。

「だから」

 こんなところでしくじるワケにはいかない。

 爆弾が砕けるか先か、起爆して周囲を呑み込むが先か。

 やがて爆弾の一部がひび割れ、全体が淡い光を帯びる。

 

 ――爆弾は情けない音を立てると、紫の粒子ともつかぬ何かになって、呆気なく消える。

 爆弾の破壊は、成功した。

 

 

 

 

 

 

 周囲を薙ぐ腕の一振り。無数に放たれる紫の光弾。竜巻のような突進。

 どれもが凶悪かつ圧倒的な一撃。それを、カナトはたったひとりで凌ぎ続けていた。

 ほんの一瞬でも決定打を放つ余裕さえあれば――その狙いをあざ笑うかのように、圧倒的な物量の攻撃は、うかつな反撃さえも許さない。

 しかし、凌ぐ。

 

 爆弾の処理は成功したのだろうか。ルベルは無事に助かるのだろうか。

 幾つもの懸念を抱えながら、カナトはまっすぐにダーク・ビブラスを見据える。劣勢に置かれようが、窮地に立たされようが、だからこそ彼の眼光は不屈を体現していた。

 

 傷付きながらも決して倒れない、ひとりの「戦士」に怪物は恐れを抱いたのか。トドメとばかりに両の触腕を振り上げ、2つ目の爆弾を作り出す。

 ふたたびカナトの表情に焦燥が浮かんだ、その時。

 

 

 

「――『エンドアトラクト』」

 

 青白い流星が、新たな爆弾ごとダーク・ビブラスの触腕を撃ち落とした。

 

 

 

 巨体が明確な悲鳴を上げてよろめく。

 隙だらけになった両脚へそれぞれ、桜色の双刃『クララレンダン』と蒼く輝く光刃『HFBカマイタチ』の一閃が叩き込まれる。

 堅固な装甲を砕かれて跪く巨体の前に、3人が降り立った。

 片や忍者を思わせる容貌の、片や青いラインが特徴的な、黒いキャストの二人。そしてもうひとりは青いゴシックロリータの衣装に身を包み、緑の髪をツインテールでまとめた少女だった。

 

「ハイド、あべし、ロビット……!」

「話は後だ……さあ、トドメを!」

 

 カナトは驚いていたような表情を見せたが、ハイドの言葉で我に返って、すぐに不敵な笑みを浮かべる。

 コートエッジの刀身が、溢れる光を帯びた。

 青い奔流は巨大なフォトンの刃となって、掲げるように振り上げられる。

 触腕と両脚を砕かれ、伏したまま隙だらけのダーク・ビブラスに為す術は無い。

 

「――『オーバーエンド』」

 

 のたうつ竜のような一撃は、満を持して頭部のコアごと呑み込み、巨体を両断した。

 

 

 

 

 

 

 一般市民およびアークスの死傷者はゼロ。市街地へ侵攻したダーカーの掃討も、ダーク・ビブラスの襲来というイレギュラーを含めて、全てが滞りなく終了した。

 まだ事態の終息から1日しか経っていないが、すでに当該地域の復興は始まっており、あと3日もすれば事前と変わらぬ街並みに戻る予定らしい。

 ダーカー勢力の規模に比べて、今回は被害も少ない方であると言えた。しかも人死にが出ず、作戦としては上の中。充分に上等な結果だ、それはそれは非常に喜ばしい。

 だがしかし、わたしことルベルは。

 

「恥じるべき不覚だわ……」

 

 自責と自らに対する情けなさを隠し切れなかった。

 

 ダーク・ビブラスの奇襲を受けて気絶したわたしは、アルーシュによる応急治療を経て、作戦のあとにメディカルセンターへと搬送された。

 とっさに回避行動へ移ろうとしたコトが幸いしたのか、右腕と右脚の骨折以外には目立った外傷も無かったようだ。あと数日は検査も兼ねて入院させられるらしい。

 

「でも、すぐ治るケガだけで済んだのは良かったね」

 

 わたしが居るベッドの隣で、ツインテールでまとめた銀髪に花型のコサージュを着けたニューマン『ニリナ』が、赤い果物の皮を剝きながら言う。

 本当に彼女の言うとおりだ。わたしが常人よりも頑丈な身体で良かったと思う。

 

 ところで、なんで途切れさせず、あんなにスルスルと剥くことが出来るんだろうか……情けなさの上にコンプレックスが覆い被さってくる。

 わたしが野菜や果物を剥こうとすれば、きっとウサギどころかよく分からないオブジェになること請け合いだわ。しかも、なぜか黒く変色して。

 

「ソレに、今回のアレはしゃあないだろ。何せ、あんな動きは見たことがない」

 

 カナトが切り分けられた果物――果肉は白に近い、薄い黄色だった――をひとつ指先で失敬しながら、残りが載せられた皿を「ん」とこちらへ差し出してくる。

 しれっと病人の見舞いを摘まみ食いしたコトに対する咎めなのか、ニリナは彼を横目でじとりと睨むが、本人は気付きもしない。

 軽く礼を言いながら、フォークでそれを口に放り込む。シャクシャクと小気味いい食感のあとに、爽やかな甘さが口の中へ広がった。

 

「あら……おいしいわね、コレ」

「アルトさんが地球で仕入れてきた『リンゴ』っていう果物らしいよ」

「ウィリディスにも、地球で買ってくるように頼んでおこうかしら……」

「その家主だけれど、ルベルが寝てる間に何回か連絡寄越してきたよ」

 

 少し意外だと思った。彼が居なくなる時、いきなり向こうから連絡を寄越してくるコトはあっても、立て続けにというのは珍しい。

 

「団長から、ルベルが倒れたっていう連絡が行ったらしくてな。普段通り仏頂面で不愛想のクセして、心配してるのが丸分かりだったぜ」

「へえ、それはまた」

 

 あの朴念仁が、本当に珍しいコトもあるものね。

 

「それから……ユカリちゃんの話になるけど」

 

 少し間を置いてから、カナトは改まって真面目な面持ちで切り出した。

 団長とウィリディスが立てた、ユカリの正体に関する仮説は、何人かの世界群歩行者達メンバーに周知されている。カナトもそのひとりだ。

 

「今回、少なくとも『何のために』は1つ明らかになったわね」

 

 オラクルへ来たユカリが目覚めた時に「偽装技術の綻び」と嘘をついたのは、アルトがとっさに機転を利かせただけ。

 現在のアークスは惑星・地球での任務を最重視しており、ことさら地球の一般人を巻き込まないよう、偽装技術には力を入れている。

 綻びが生まれた上に、そこへ地球人が紛れ込む確率など限りなくゼロだと言えた。

 つまりユカリがオラクルへ来たのは、明らかに意図されて仕組まれたコトだ。

 

 協力にしろ、利用されているにしろ、少なくともユカリの背後には誰かがついている。

 しかもその「誰か」はオラクルの偽装技術にまで介入できる、何らかの力を持っているコトまで間違いないだろう。

 

 その上で、探るべき点は2つあった。ひとつ目は「誰が」、ふたつ目は「何のために」、ウィリディスがユカリを保護し、オラクルへ運ばなければならない状況を作ったのか。

 ユカリに対して検査だけでなく訓練をさせたのも、異常に早い段階で実戦投入したのも、それを掴むために泳がせていた――これが真意だ。

 

 これらの経緯やユカリの正体に関する仮説から、実のところ、世界群歩行者達メンバーから見たユカリに対する心証は良くない。

 わたしやアルーシュなどのアークスが常に彼女と行動しているのは、見張りの意味合いもあるのだ。

 

 しかし一方で矛盾しているのは、まずユカリ自身が東京で紫色のコアのダーカーに襲撃されたという点。

 次に地球から送られてきた刺客としては、あまりに行動が消極的・受動的だという点。

 そして、今回の任務において――ユカリはダーク・ビブラスの爆弾を破壊するという、明確な戦果を上げたという点。

 ユカリが明確にオラクルへの敵意を持つ存在であるなら、これらの事実とはそぐわない。

 

 それゆえ「もしユカリの正体が仮説通りという前提で、彼女はあくまでも被害者だったとしたら」……この可能性を捨てきれず、現状の世界群歩行者達は後手に回っていた。

 もっとも、ウィリディスと団長は「その先」についても考えている様子だったけれど。

 

「それにしても、なぜか『ユカリの真意がどうであったとしても切り捨てる』という方針は出ないのよね……」

「簡単だろ。困っている奴が居れば誰だろうが助けるし見捨てない、それがアークスだ。それで充分だ」

 

 カナト・ルズイスは筋金入りのぐうたらでめんどくさがり屋だと、士官学校時代からの付き合いであるニリナも評している。

 座学を頻繁にサボッていたせいで、卒業さえ危うくなりかけたほどだ。

 しかし「他者を見捨てられない」「どんな相手でも諦めない」という信念において、彼は紛うことなき一流のアークスであると、わたしは思った。

 

 ――カナトにしても、ウィリディスにしても、アーテルにしても、他の知人にしても。

 なぜかアークスにはお人好しが多い。

 

「それに俺は、全ての可愛い子の味方だかんな! もちろんルベル、君もさ……」

 

 そう言ったカナトはドヤ顔でわたしの手を取り、即座に繰り出されたニリナの鋭い手刀で撃沈した。

 前言撤回。ただ単に変人が多いだけだったようね。

 

「……ただ、それにしても楽観視は出来ないね」

「ええ。どうやら、ユカリはわたし達の想像以上に厄介な立ち位置よ」

 

 ニリナの言葉に同意する。

 

 

 

 何せ今回のことから――おそらく、ユカリには紫色のコアのダーカーを呼び出すための「目印」もしくは「経路」という役割が含まれていると、ほとんど確定したからだ。

 

 

 

Chapter4ALL I WANTEnd.Next『#4-5』

 

 

 

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