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小説『Endless story』#4-2

 #4-2【この頃流行りの女の子

 

 

 

 ダーカーとは神出鬼没だ。宇宙の闇を彷徨い、どこの惑星にでも現れ、侵略してゆく。

 それは惑星間を航行するオラクルに対しても例外ではなく、こうしてアークスシップへ襲撃が起きることはそう珍しくもないようだ。

 

 私たちは今、民間人をそのダーカーから守るため防衛線に駆り出されていた。

 辺りはあちこちから黒煙と火の手が上がり、瓦礫がそこら中に散乱している。見る限り人間の死体が転がっていないのは良かったけれど、それでも惨憺たる有様だ。

 

「民間人の救助は既に済んでいるから、わたし達の役割は遊撃。4人1組で動くわ」

「あべしとかハイドとかロビットとか、他のメンバーは?」

「セントラルアリーナに出現した大きな反応の元へ向かったらしいわ。だから、この区域の残存ダーカーはわたし達だけで処理するコトになる」

「ほむじょむ、ところで気になるコトが2つあるんだけど……」

 

 いったん言葉を切って、アルーシュがこちらを指差す。

 

「ユカリは丸腰のままでいいのかしら、フォトンの扱い方は教えたと言っても、さすがに地球の普段着のままじゃ……」

「それはもうすぐ……と、噂をすれば来たわね」

 

 ルベルが見ている先を追うと、めちゃくちゃに荒らされた道路を器用に駆け抜けて来る1台の赤いスポーツカーらしきモノが見えた。あっという間にこちらまで走ってきたそれは、派手なブレーキ音を鳴らしてドリフトしながら私たちの前で停車する。

 ドアを開き車の中から現れたのは、赤髪とネコミミが特徴的で頭にラッピーをちょこんと乗せた少女――アルトだった。

 

「例のモノを持ってきたにゃん」

「急に悪いわね」

「どうせ明日には渡すつもりで準備していたから、これくらいは大したコトないにゃん」

 

 言いながら、アルトは車のトランクをゴソゴソと漁り始める。彼女が中から取り出したのは、白く硬質な箱。物資の輸送に使われるPREボックスというモノらしい。

 

「フンドシからノーブル・パワーまでなんでもござれ、あるとん商店の品揃えはオラクルいちにゃん。さあ受け取るにゃ――アウターウェア『フロンティアリード雪』及びベースウェア『ラッケージベスト雪』カスタム版。コレがユカリの戦闘服だにゃあ」

 

 バシュッと音が鳴り、PREボックスが開いた。ドライアイスのような白い煙と共に中から姿を見せたのは、肩や脚などにプロテクターのついた、まさしく戦闘服らしいスーツだった。

 

「……って、まさかココで着替えるんですか?」

「そうにゃん」

 

 いやいやいやいやそんなあっけらかんと言われても。周りに人気がないって言ったってここ野外だし市街地だし。どう見ても今着てるセーターの上から羽織るとかそういうアレじゃなさそうだし。ここで脱ぐのは流石にちょっといくら文化の違いがどうとかって問題じゃないと思うし。

 

「言っておくけれど、別に脱ぐ必要は無いからね?」

「えっ」

 

 言うなり、アルーシュが中空にホログラムのディスプレイを出す。彼女がそれを指先で軽快に何度か叩くと、突如として私の周りに光の輪が幾つか現れる。

 そして全身がひときわ強い光に包まれたかと思った次の瞬間、私の服はPREボックスに入っていたソレと入れ替わっていた。

 そうだ、どうにも忘れがちだけれど……いま私が居るのは、私たち地球人がSFとして描いていた世界そのものなのだ。

 

「そしてわたしからはコレを」

「え、わ、ちょ、うわっ」

 

 ルベルから唐突に1本の日本刀を投げ渡されて驚く。なんとか取り落とさずに済んだ。

 鞘は紫の紋様が入った漆塗りで、黒い羽根を束ねたような装飾が特徴的だった。

 

「妖刀『ヤミガラス』――ウチの家主のお古で悪いけれど、切れ味は保証するわ」

「え、えっと……2人とも、ありがとうございます!」

「この程度の出資なら礼には及ばないにゃん」

 

 戦闘服は見た目よりも着心地が良くて軽い。受け取ったヤミガラスは見た目よりも手にずしりとした重さを伝えて来る。その重さが、これから私は本当に戦うのだというコトを実感させていた。

 

「ところで、4人1組ってコトはあるとんが最後の1人?」

「うんにゃ、行くのは車の中で寝こけているコイツにゃん。ほら、そろそろ起きるにゃ!」

 

 アルトがスポーツカーのドアを空けて、中に居た誰かの頭を叩く。なにやらうめき声が聞こえ、もそもそとあくびをしながら青年が這い出てきた。

 青い髪と、赤い軽装が特徴的なヒトだった。

 

「なんだ……もう着いてたのか」

「カナト君!」

「へえ、今回はルベルとアル姐も来るんだな。そんで、そっちは……噂の地球人か?」

「は……はじめまして、ユカリです!」

 

 青年は顎に手を当てて、品定めするように私を見てから、にかっと笑う。

 

「おう、俺は『カナト』! よろしくな、ユカリ!」

「面子も準備も整ったようね、じゃあ――時間もないから、そろそろ向かうわ」

 

 ルベルが進み出る。彼女が見ている先には、既にいくらかのダーカー……『ダガン』と『カルターゴ』、それに『エル・アーダ』が群れて迫って来ていた。私は思わず身構えて、アルーシュも手に豪著な装飾のロッド『オフスティアソーサラー』を現す。

 

「アルト、配達と送迎ありがと」

「そっちこそ、グッドラックにゃ」

 

 アルトはスポーツカーに入り込みながら、こちらに向かって親指を立ててみせた。

 

「アルーシュは常にユカリを意識しつつ、わたし達の支援を。ユカリはアルーシュからなるだけ離れず、わたしとカナトが撃ち漏らした敵の処理を」

 

 私はルベルの言葉に頷いてから、ちらとアルーシュの方へ視線を送った。彼女はそれに気付くと、ひとつ「大丈夫、私がついているから安心してね」とでも言いたげに微笑む。

 

「そして、カナトはわたしと一緒に……」

 

 

 

 ルベルが言うや否や、強烈な突風。

 目にも止まらぬ速さで赤と青の影――カナトは私たちの間をすり抜けて駆け抜ける。

 彼は瞬きする間にダーカーの眼前へ迫り。

 

「おらよっと――『ギルティブレイク』!!」

 

 弾ける閃光。砕け散る黒い躯。

 ライトブルーの軌跡を描く『コートエッジ』が、まとめてダーカーを薙ぎ払った。

 彼は崩れ落ちたカルターゴの残骸に足を乗せ、コートエッジを肩に担ぎ、振り向きざまに口角を上げて言い放つ。

 

「切り込み隊長、だろ? ほら――さっさと行こうぜ」

 

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