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小説『Endless story』#2-2

 #2-2【Now I face out, I hold out

 

 

 

 ……――アークスが扱うクラスには、全てで9つの種類がある。

 

 

 深紫の武装に身を包んだ女性型キャスト『AAA3rd』。

 彼女は森林を駆け抜けてゆく。その手に携えたパルチザンを振り抜く。

 ザウーダンとフォンガルフは両断され。貫かれ。投げ飛ばされ。そしてまた両断され。

 遠間から一気に転がり突進してきたガロンゴを、素早く持ち替えたナックルで弾き。

 空隙に叩き込まれた渾身の一撃が、頑強な硬皮ごと巨体を粉砕した。

 勢いを殺さず姿勢低めで駆け出し、目がけるは森林の覇者ロックベア。

 

 ――タフネスと近接戦闘能力に優れる『ハンター』、至近距離での高速戦闘を得意とするファイター。

 

 

 黒いボディに青いフォトンカラーのラインが特徴的な男性型キャスト『ハイド』。

 テールランプを思わせる青い軌跡が火山洞窟の闇に煌めく。

 ディッグにシル・ディーニアンとノーディラン。龍族の突進を軽快に掻い潜り。

 宙を舞い放たれる一射一射。的確に龍族の弱点である頭部を射抜き確殺してゆく。

 雑魚を薙ぎ払って、遠間にて待ち構える磁炎龍ヴォル・ドラゴンを睨み付けた。

 そして彼は、武器をアサルトライフルに持ち替えて構え直し、静かに狙いを定める。

 

 ――精密な射撃と爆撃を使い分け広範囲の戦闘をカバーする『レンジャー』、高い機動力で接近しての射撃により前衛を担う『ガンナー』。

 

 

 アルーシュがロッドを舞うように振るう。雷撃がのたうつ大蛇のように踊り蹂躙する。

 まるで広がる砂漠地帯に突如として来襲した嵐だった。

 スパルダンAにシグノガンにシグノビート。鋼で覆われた堅強な機甲種の軍勢。

 それらを押し並べて区別なく、電光の奔流で次々と呑み尽くしてゆく。

 雑多な群れを薙いだ先、前方から現れるは巨大な機甲種・械王トランマイザー。

 水平にロッドを据え、それと向かい合うアルーシュは口元に艶やかな笑みを浮かべた。

 

 ――多種多様な『テクニック』を扱い強火力・広範囲と兼ね備えた『フォース』、同じく『テクニック』による強化・支援で並ぶクラスのない『テクター』。

 

 

 ルベルの一閃は横合いからガルフルの群れを一刀両断した。

 雪山の銀世界で俊敏に動き回っては獣を斬る。斬る。切断して駆け巡る。

 はためくコートの黒い裾。虚空に描かれる剣閃。残像すら見えた。

 それからバレットボウへと持ち替える。5本の矢がキングイエーデの顔面に突き立つ。

 崩れ落ちる巨体の先、更に巨大な影、雪原の巨象デ・マルモスが雄叫びを上げた。

 ルベルは息を少しだけ吐く。そして再びカタナへ持ち替え、抜刀の構えを取った。

 

 ――『カタナ』と『バレットボウ』であらゆる状況を柔軟に対応する『ブレイバー』。

 

 

 漆黒のボディに真紅のマフラーが目を引く男性型キャスト『abe-c』。

 彼はジェットブーツでシル・サディニアンの頭を思い切り踏み抜いた。

 更に飛び上って浮遊大陸を駆ける。自在な挙動で数多の龍族を文字通り蹴散らす。

 ふっ、と重力を捨てて空中に身を委ね、デュアルブレードに持ち替えて。

 二刀から更に放たれた幾本ものフォトンブレードが、剣撃の結界を展開する。

 龍族たちをすれ違い様に仕留めながら、次なる標的へ突き進む。

 ぐっと姿勢を低くして、突進の構えを取る大型ダーカー・沌の骸ウォルガーダへと。

 

 ――『テクニック』による支援を扱い『デュアルブレード』『ジェットブーツ』を用いての空中戦を得手とする『バウンサー』。

 そしてこれらに、召喚獣『ペット』によってのトリッキーな戦闘を行う『サモナー』を加えた計9つが、現在アークスで正式に認可されているクラスである。

 

 

「――凄い……!」

 

 VRによる訓練と言えど、実際に見るとこれほどまでのものなのか。

 これが戦いの中に身を投じ、数多の戦場を駆け抜けてきた兵士たちなのか。

 私はおそらく彼らの戦闘に惹き込まれ、圧倒され、魅了されていた。

 

 私は地球人の子供でしかなく、もちろん今までの人生においてこんな戦闘を行ったことなどない。スポーツですら学校の体育でしかやったことがないのだ。

 加えて両親は既にいないため、高校も中退し、バイトを掛け持ちしてやっと食い繋いでいくだけの、本当にそれだけの日々。そのバイトもここへ来る少し前にクビになっていた。

 娯楽と言えばPSO2くらいのもの、本当にそれだけだった。

 刺激もなく、漠然と生きる「だけ」の毎日――だったからこそなのかもしれない。

 肌の奥から鳥肌が沸き上がるような感覚を味わう。身体に電撃を浴びせられるような衝撃を体感した。

 それは浮遊大陸に吹き抜ける風のせいなのか。いずれにしても、きっと生まれて初めてのことだった。

 

「凄い、じゃないわよ」

 

 不意にルベルの声が聞こえた。

 彼女は私と背中合わせに立ち、龍族と向き合ったまま私に言う。

 

「これからあなたも戦うの。大剣がいい? 長銃が好き? 長杖が欲しい? 他にもどれでも選り取り見取りよ。言えば好きな武器を貸してあげる」

 

 私が戦う。

 聞いた瞬間に、ざわりと体の表面が総毛立ったような気がした。

 私も彼ら・彼女らのようにあの大立ち回りを繰り広げられるだろうか。

 

「私は――」

 

 少し逡巡して、私は『それ』を扱うことに決めた。

 

 

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