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小説『Endless story』#2-1

#2-1【巨乳なんてどこがいいのか】

 

 

 

 ぱたぱたと、誰かが忙しく歩き回る音で目を覚ました。

 今度の私はサイバネティックで無機質な部屋、ではなく……白と緑が基調の、生活感がある広い部屋に居た。

 ベランダ側の窓はとても広く、開放感がある。いくつも置かれた鉢植えなどの向こうに、青空と浜辺が広がっていた。

 

 「あら、目が覚めたかしら」

 

  着替えの最中だったのか、下着姿で髪を結っていないルベルが居た。元々の端整な容姿もあってか、毛先が薄紫色の白髪は彼女によく似合う。

  そうだ、昨日からしばらくの間オラクルで過ごすことになった私は、ひとまずはルベルの部屋で居候することになったのだ。

 ……厳密に言えばルベル自身も居候らしいので、彼女の部屋ではないのだが。なんでも「今は家主が留守にしているのよ」だそうだ。家主とは一昨日に私を助けた、右目が緑色の人らしい。

 

「起きたなら、あなたも準備なさい。わたしが化粧をしないから化粧台はないわ。洗面台はベランダを出て行った先にあるシャワー室の手前」

「えっ、ちょ」

「衣類はまだ乾かしているから、私の適当な替えを貸してあげる。それから持ち物は最低限の方が良いわよ」

 「ちょっと待っ、えっ、え……準備って……どこか行くんですか?」

 

  向こうも急いでいるのか、矢継ぎ早に言われて戸惑う。

 

「言ってなかったかしら。訓練へ行くわよ」

「……はい?」

 

  もし今回の件の謎を解明したとしても、地球へ戻った時にまたイレギュラーでダーカーなりの襲撃を受けないとは限らない。そうでなくても、幻創種という未だ謎が多い存在も頻出しているというのだ。

  それにせっかく適性も時間もあるのだから、何かあった時の自衛手段としてフォトンを扱えるように訓練しておいたらどうか、という話だった。

 

  ただしもちろん1ヶ月でアークスの士官学校を卒業出来るワケも無く、だからといって訓練をアークスシップ内で行おうにも、シップ内で『フォトンアーツ』……略称『PA』や『テクニック』……つまり、フォトンを扱った技の使用は禁止されている。

  そこで世界群歩行者達のメンバーが同行して、バーチャルリアリティ、略してVR技術を用いた訓練施設へ行くことになった。

 それにしても、いきなり今日からだとは考えなかった。なんてめんどくさい返事をしてしまったんだ昨日の私よ。

 

 「そうそう、それから朝食はそこのバスケットから適当にフルーツを取って食べておいて」

 

  不意に言われた朝食という響きがあまりにも久しぶりだったので、驚いて目を丸くしていると。

 

 「……わたしは料理が苦手なのよ」

 

  ぷいっと目を逸らして、小さくそれだけ言われた。

  なにか違う意図にとられてしまったらしい。

 

 

 

 

 

 

  ルベルと共にテレポーターを出ると、アークスロビーやチームルームに似た広間へ来た。

 ただし通常のアークスロビーとは打って変わり、黒い床や壁と、黄色いフォトンカラーのラインが印象的な内装をしている。

 奥には真円状のゲートが見えており、その表面は水のような何か……おそらくフォトンで出来た何かの類いだろう……で覆われていた。

 

 アークスシップ・チャレンジロビー。アークスがVR空間で『チャレンジクエスト』なる、疑似戦闘による訓練を行う施設だ。

  VRとは直訳すると『仮想現実』といい、つまりはコンピューターの中で作られた仮想的な世界を、あたかも現実かのように体感させる技術である。

 つまりチャレンジクエストでは実際に大ケガを負ったり、死亡するリスクは無い。

 

 そしてもうひとつ、訓練にチャレンジクエストを選んだのは理由があるらしい。

 向き不向きはあれど、アークスは計9つのクラスから好きなモノを自由に選べる。また、本人が申請すれば変更も可能だ。

 しかし、いずれにしてもクエスト……任務へ出向く際は、どれかの『メインクラス』と『サブクラス』をそれぞれひとつ選んで行かなければならないし、扱える武器とPA・テクニック、スキルもそれぞれのクラスに合ったものだけとなる。

 

 ただしVR技術によるところなのか、このチャレンジクエストだけは全クラスの武器・PA及びテクニック・スキルを使用できるらしいのだ。

 

「つまりフォトンに関するそれとは別に……あなたにとって何のクラスがより合うのか、ついでにこの訓練でそれも見極めておこうって話ね」

 

  後ろから声をかけられて、少しビクッとなる。

 振り返った先にはアルーシュと……他にも、チームメンバーであろうキャストが何人か連れだっていた。

 

「わたしだけでどこまでユカリをカバー出来るか、分からないから声をかけたけれど……急な呼び出しだった割には、意外と集まったわね」

 

 どうやらチャレンジクエストへ行くにあたって、ルベルが彼女らを呼んだらしい。

 

「いやぁ、新人さんをお手伝いする機会って最近あまりなかったからねえ。面白そうだし私らもついていくよ」

「今回、フィールドの踏破は考えなくて良いのか?」

「ええ、強いて言うならVRエネルギーが切れるまで、出来る限りユカリにフォトンの扱いと戦闘を経験してもらうのが目的かしら」

 

 要約すると、どうやらルベルだけでなく、アルーシュらも今回の訓練を手伝ってくれるらしい。

 そして私たちは訓練――チャレンジクエストへ向かうことになり、同時にこの日は私にとって、最初の大きな転機ともなった。

 

 

 

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