小説『Endless story』#1-3
- 2016/04/13 06:18
- カテゴリー:小説, PSO2, ゲーム, Endless story
- タグ:EndlessStory
- 投稿者:Viridis
#1-3【踊る猫は言う】
10年ほど前に発見された情報素子『エーテル』の普及を受けて、地球上の通信技術は爆発的に進歩した。
その利便性に、各先進国家はこぞって国内におけるエーテルインフラの導入に走った。急遽各地に建造された『エスカタワー』の存在も相まって、またたくまにその技術は地上を席巻し、今では人々の生活になくてはならないものとして扱われている。
エーテルの普及に伴い、パソコンやタブレットなどの端末に使用されるOSも『エスカ』と呼ばれるものが主流……否、OSにおけるシェアを、エスカがほぼ独占した。
そして「エーテル通信の利便性を若い年齢層に体感してもらう」という名目で、エスカに標準インストールされているオンラインRPG――それがファンタシースターオンライン2、通称『PSO2』である。
「どういうワケかあたしたちは地球人の間で、そのゲームの中のキャラクターということになっているらしいわね。けれど実際のところは、こうして現実に存在している」
そんなバカなコトはあり得ない。
そう言って否定することは出来なかった。何しろいま私はまさに、その舞台である船団オラクルの中にいるのだから。そして昨日のこと……私の身体に深々と刻まれた傷跡が、アレは間違いなく現実だったと突きつけている。
「一体、何がどうなって……」
「それはこっちが聞きたいくらいだにゃあ。たぶん、地球での任務を遂行するため偽装を施した空間に、その割れ目から紛れ込んでしまったんじゃないかなと思うけどにゃん」
また扉がスライドして開き、新たに赤い髪の少女が入って来た。
「アルト」
「にゃあ」
『アルト』と呼ばれた少女はネコミミがついた黒い帽子を目深に被り、その上に小さな黄色い鳥をちょこんと乗せている。あれはPSO2に登場する生物のひとつ『ラッピー』だ。
「瀕死のキミが連れて来られた時は本当にビックリしたにゃ。まさか隔離された作戦区域に地球人が紛れ込んで来て、しかも戦闘に巻き込まれるだにゃんて思わにゃいもの」
アルトが言うには、彼らアークスは地球でも活動しているらしい。そして、活動の際は周辺の隔離と偽装・隠蔽のための細工を施しているから、私を含めた地球人にその存在は知られていなかった。
しかし、どういうワケか私は作戦区域に紛れ込んでしまった。そしてそこでダーカーの襲撃を受け、たまたま居合わせたアークスの救助を受け、ここまで連れてこられたと。
「これは、ウチの家主の責任問題かしら……」
「作戦と無関係な一般人を救出しただけだから、彼の責任じゃないにゃ。むしろ追及するとしたら、研究室の連中とオペレーターじゃにゃいかにゃあ」
『彼』というのは、私を助けた、右目が緑色の彼だろうか。
「あの、そのヒトは……」
「ああ……あなたを助けた男よ。なんでも今朝『ちょっと調査行って来る』とか言って、そのまま出て行ったけれど。たぶんしばらく戻らないわね」
「彼はちょいちょいフラッとどこかへ行くにゃん」
居ないらしい。助けてもらったお礼を言うべきなのだろうか、と考えたのだ。
もっとも、特に生きていたいとも思っていなかったので、心がこもっているかどうかと言われればまた別なのだけれど。
さて、まだ現実味は薄いものの、私の現状についてはたいだい把握できた。むしろいま知りたいのは、私はこれからどうするべきなのかということだ。それについて聞くと――。
「申し訳ないけれどあなたにはまだしばらく、具体的には1ヶ月ほど、わたし達のチームの管理下で治療を受けて貰うわ」
「地球人の肉体に対する、ダーカーの影響はまだ資料が不足しているにゃん。念には念を入れて経過観察する意味と、その間にキミが隔離された区域へと入ってしまった原因も、出来る限り調べるつもりにゃ」
「とはいえ、あなたにはあなたの生活がある。出来る限り便宜を図るつもりでは……」
「いえ、大丈夫です」
彼女の言葉を遮り私は言った。どうせ戻ったところで、やるべきことも行くべき場所も何もないのだから。
少し驚いたようだったが、ただ一言「そう」とつぶやいただけで、それ以上は追及してこない。少しだけ、ありがたかった。
「さて、ところで地球人さん。そろそろあなたの名前を訊いておきたいのだけれど」
「……『ユカリ』です」
「そう。こちらはアルト、私は『ルベル』よ。これから少しの間よろしくね」
彼女……『ルベル』はそう言って手を差し出してきた。私もそれに応え、握手をした。
♪
「言われた通りにしたわよ」
わたしはユカリが居る部屋から出て、端末で『彼』と連絡を取っていた。
ユカリをダーカーの群れから助け出した彼は、一旦アークスシップへ戻った後に、再び調査の為地球へと降り立った。目下、地球に頻発するダーカーの追跡と調査、そして殲滅が彼の抱えている案件だ。
ユカリを助け出したのも、どうやらその調査の最中だったらしい。
彼は礼を言い、引き続いてチームメンバーと一緒にユカリの監視を頼みたいということ、ユカリが自ら「やりたい」と言い出したことは、出来る限りやらせてあげてほしいということ、そしてこれらについて既に団長にも話は通してあるということをわたしに伝えた。
「それは、構わないけれど……単なる地球人を随分と気にかけるわね」
そもそも彼が提示した、1ヶ月という拘束期間も異常に長い。いくら治療や検査が必要といっても、それらは数日か長くても1週間あれば全て済んでしまうハズなのに。
少しの間、端末越しに静寂が続いた。何かを言うべきかどうか逡巡しているようだが、やがて彼は「ふむ」ともらすと、ようやく言葉を継ぐ。
そして、わたしはその内容に少しだけ眉をひそめた。
「――ユカリはただの地球人じゃない、ですって?」
七色道化のジューダス
更新待ってました!
物語も進み、気になる情報も増えてきて、今後の展開から目が離せません。引き続き応援しております!