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小説『Endless story』エピローグ

EX-10

 

アルーシュ「アル姐と!」

alto「あるとんの」

アルーシュ「ぐだらじ☆出張版!!」

alto「……の時間だにゃ」

 

アルーシュ「はいっ、そんなワケで! いよいよ最後のぐだらじ☆出張版です!」

alto「やっぱり感慨深いものがあるにゃあ」

アルーシュ「ようやくと言うか、あっという間にと言うべきか、ついに本編も完結だねえ」

alto「この1年半、読者の皆さんは楽しんでいただけたかにゃあ?」

 

アルーシュ「では最終回のゲストはこちら! 我らが世界群歩行者達のマスターを務める、知性溢れる温厚なナイスガイ、緑が好きだからって苔とか言われたい放題なのはご愛敬、塊素団長と!」

alto「ご存知本編の黒幕、全ての元凶、そんでもってある意味真ヒロイン、度重なる論争に終止符を打つ最有力候補はユカ縁か!? 透藤縁嬢だにゃ!」

塊素「僕はそんな風に言われていたのかい?」

縁「ちょ……ちょっとひとまず色々ツッコみたいことがあるのですけれど……」

アルーシュ「っていうかユカリが攻めなの?」

alto「逆でもいいんにゃよ?」

縁「いやどっちもないわ!」

 

アルーシュ「さてまず改めて、本編を終えてみてどうでしたか縁さん」

altoNDK(ねえどんな気持ち)? NDK(ねえどんな気持ち)?」

縁「その……ホント、はい……ご迷惑おかけしてすみませんでした……」

alto「にゃんだあその謝り方は? 謝罪の意志が足りてないにゃあ?」

縁「いやホント許してください、ごめんなさい……何でもしますから……」

アルーシュ「ん?」

alto「いま」

塊素「何でもするって」

3人「「「言ったよね???」」」

alto「……正直なところ、今の狙ってやったにゃん?」

縁「えへへ……一回これやってみたかったんです、世界群歩行者達の皆さんもよくチームチャットでやってたから」

塊素「なんともいじらしくて微笑ましいものだね……元ネタを知ってさえいなければ」

縁「元ネタ……?」

アルーシュ「さてそれでは次は質問コーナー行ってみよっか!」

alto「露骨に話を逸らしたにゃあ」

 

Q1,社長、ロゼ、ルベルの3人に質問です。IDFの中の乗り心地はどうでしたか? RN『ホット稲荷』より

 

アルーシュ「これは3人に対する質問ね」

alto「そんなワケで本日は縁と例の3人にお願いしてIDFに実際に入ってもらっているにゃん!」

塊素「ちょっちょっと待ってそれは大丈夫なのかい!?」

縁「頑張りました!」

アルーシュ「縁ちゃんも『テヘペロ☆』みたいな感じで舌出してる場合じゃなくない!? ちょっと大丈夫なの、それ!?」

縁「実質はエーテルなので人体には無害です……多分!」

塊素「多分って!」

アルーシュ「しかもそれ社長とルベルが大丈夫なのかちょっと怪しいじゃない!」

alto「そんにゃワケで、まずは現場のロゼさーん」

 

ロゼ「はい、こちらロゼでーす! ただいまルーサーの中にお邪魔していまーす」

alto「乗り心地はどうかにゃあ?」

ロゼ「何ていうか、羽毛布団みたいですね。ちょっと表面がゴワゴワしてる系の」

アルーシュ「羽毛布団……」

ロゼ「あとほのかにファ●リーズの匂いがします」

塊素「ファブ●ーズ……」

縁「それイマジナリー・ボードにお味噌汁こぼしちゃったとき、拭いた後にファブリーズかけておいたからかも」

alto「まず日常生活のどのタイミングでイマボ出す必要あるのか分かんねえ!」

 

alto「続いて現場のルベルさーん」

ルベル「ええ、こちらルベルよ」

アルーシュ「エルダーの乗り心地はどうよ?」

ルベル「なんか……イカ臭い」

alto「イカ臭い……」

ルベル「魚介系ダーカーの王だからなのか、元がダイオウイカをモチーフにしているからなのか……とにかく磯臭くてイカ臭い……」

アルーシュ「男の臭いなのね」

塊素「その言い方は……ちょっと色々語弊があるかと思う……」

 

alto「続いて現場の社長さーん」

社長「私だ」

アルーシュ「アプレンティスの乗り心地はいかがですか?」

社長「まあ悪くない」

alto「マジかよ」

社長「赤い繊維が辺りを埋め尽くしている光景が妙に落ち着くな。それからこのドロドロとした重い空気が纏わりつく感覚も嫌いではない」

アルーシュ「あっこれダークファルス基準で語ってる!」

塊素「意外とそういうところにこだわりがあるんだね……」

社長「ひとつ強いて言うとすればそうだな、何故か昆虫ゼリーみたいな匂いがする」

alto「にゃんで匂いが個性あるんだよ!」

 

アルーシュ「ちなみにダブルの中はどんな乗り心地だったの?」

縁「ディ●ニーランドのスプ●ッシュマウンテンみたいでした」

alto「まずいですよ!」

塊素「匂いは?」

縁「例えるならキャラメル味のポップコーンみたいな……甘い匂い……」

アルーシュ「やべえよ……やべえよ……」

 

Q2,ユカリの正体が自律型の具現武装なら、自分で胸の大きさを変えられるのでは? RN『半ば狂気の沙汰』

 

ユカリ「それだあッ!!」

アルーシュ「うおっびっくりしたいつの間に!?」

alto「長く続いた貧乳いじりに終止符が打たれるか!?」

塊素「字面だけ見るとセクハラに近いものがあるね」

ユカリ「はぁああああああああああああッ……!」

アルーシュ「なっ……なんかよく分からないけれど、気迫だけはすごく伝わってくる!」

alto「でも全然変わってないにゃん、依然として悲しいまでの虚無が広がっているにゃ!」

塊素「これが本当の『虚空機関』……」

アルーシュ「団長、上手くないですからね?」

 

ユカリ「そんな、どうしてっ……エーテルは想像を具現化する能力を持つハズなのに……」

縁「分かっていないわね、『私』」

ユカリ「分かっていない……だって……!?」

縁「エーテルは想像を具現化する力を持つ。つまり……――想像も出来ないモノは、作り出すことが出来ないのよ!」

ユカリ「想像できないモノは……作り出せない!?」

縁「つまり、あなたは巨乳になった自分を想像できない! なぜならば、生まれた時から貧乳だから!」

アルーシュ「ユカリが膝から崩れ落ちたわ」

alto「SEKAI-NO-OWARIみたいな顔をしているにゃん」

塊素「ねえ、これ僕そろそろ帰っても良いんじゃないかな?」

ユカリ「私は……巨乳になれない……」

縁「世界にはどうにもならないこともある……これが【絶望】よ……」

alto「むしろ【絶壁】じゃにゃいかにゃ……あっごめ、ちょっ、クロスボンバーだけは」

 

~しばらくお待ちください(BGMHello)~

 

alto「ムーンありがとうございました」

アルーシュ「さて、そろそろ終わりの時間が近づいてきました。ゲストの2人にコメントを貰っていきましょう、まずは団長から!」

塊素「長かったような短かったような、不思議な感じだけれど、この物語を見守った甲斐があったと思うよ。何よりメンバーたちの活躍を見ることが、僕にとっては最も喜ばしいからね。そしてもちろん透藤縁さんたちの、これからの活躍も祈っているよ。君たちも、既に僕ら世界群歩行者達の、立派なメンバーだ」

縁「あ……ありがとうございます!」

alto「それじゃあ縁、締めを頼むにゃん」

縁「はい……。皆さん長い間ご迷惑をお掛けして、本当にすみませんでした。でも変な話、良かったとも思っているんです。オラクルの存在を知れて良かった。アークスの皆さんに、世界群歩行者達の皆さんに出会えて良かった。そうでなければ、きっと私は今もずっと、暗いままで、この世に良い事なんて何もないと思い込んでいたと思います。だから、謝るのもそうですけれど、これも言わせてください。本当に……ありがとうございました!」

 

アルーシュ「いよいよラスト、残すはエピローグのみとなりました!」

alto「戦いを終えたユカリと縁たちは、次に何を見据えるのか? ここまで来たらあと少し、最後までお付き合い願うにゃ」

アルーシュ「これで本編は終わりを迎えますが、ユカリと縁の、そしてオラクルに住む、私たちアークスの物語は、まだ未来へと続いていきます」

alto「いずれどこかで会うコトがあれば、次に紡がれるのはキミの物語かもしれないにゃ!」

アルーシュ「それでは、皆さん――……」

alto「……――またどこかでにゃ!」

 

 

 

 

 

Epilogue【光が差す、君が待つ場所へ】

 

 

 

「久しぶり」

「うん、久しぶり」

 

 フランカ'sカフェでテーブル席に座っていたユカリは、私の姿を見つけると、小さく手を振って会釈した。私もまた向かいに腰かけて、何となく周りを見渡してみる。内装は地球のオシャレなファミレス、もしくはショッピングモールに寄せてあるけれど、よく見ればあちこちにフォトンの色など近未来的な要素があることに気付いた。

 私が周りを見ている間に、ユカリが只野鳥類からメニュー表を受け取り、適当なページを開いて私の方に向けて来る。

 

「先に、メニュー見ていいよ。どれにする?」

「オススメってある?」

「私は東京風ハンバーグにするつもり」

「じゃあ、私もそれにしようかな」

 

 確か前にもチャレンジクエストの終わりに連れ立って、ここでお昼ごはんを食べたっけ。あの時は私の感情がフィードバックされて、そのせいでユカリは突然ぼろぼろと涙を流し泣き始めてしまったのだ。

 私が思い出していることを見透かしたのか、ユカリは何か不満げに口を尖らせ、じとりとこちらを睨み付けていた。

 

「あの時は本当に恥ずかしかったんだからね」

 

 ごめんねと苦笑しながら謝ってみる。するとユカリも「別にいいけどね」と悪戯っぽく笑い返してみせた。

 こんな他愛ないやり取りを繰り返している間に、東京風ハンバーグが2人分、私たちの元へ運ばれてきた。やっぱり出来るのが早いなあと思いつつ、温野菜が添えられている、鉄皿の上で焼ける音を放つハンバーグに目を奪われた。

 私たちは示し合わせたように自分の手を合わせて、小さくお辞儀するように言う。

 

「いただきます」

 

 ……――あの後、私は事情聴取のため、数日間オラクルで拘留されていた。しかし意外にもそれ以上の刑罰を受けることは無く、あっさりと身柄を解放された。そもそも本当に事情聴取や事件の背景について質問されたのみなので、それさえ刑罰だったのか怪しい。

 世界群歩行者達の団長こと塊素によれば「オラクルは、地球人を罰する規定なんて無いからね」とのことだけれど、彼や周りの人たちが私のため便宜を図ってくれたのは想像に難くなかった――……。

 

 今こうして私がオラクルに居るのは、自分なりにけじめをつけるためだった。私が迷惑をかけてしまったアークスの、世界群歩行者達の人たちに、改めてちゃんと謝って回っているのだ。もちろんそれぞれの都合があるから、すぐに全員とはいかないけれど、これが今の私に出来ることだと思った。

 あやまちを犯しても、それが終わりじゃない。その後に何を学んで、どうするべきかが重要なのだろう。たとえ後に引き返せなくなったとしても、進むべき道がひとつだけとは限らないから。

 

「それで、今はどんな感じ?」

「うん。もうほとんどは終わったよ」

 

 あとはウィリディスとルベルの所へ行くだけだ。ここしばらくの間、2人はあちこちを駆け回っていたらしく、中々タイミングが合わずに居たのだ。何でも新しいチームを作るための下準備だとか、そうでないとか。今日になってやっと手が空いたとのことらしく、これを食べ終わったら向かうつもりでいる。

 

 ユカリを通してこちらの世界をモニタリングしていたとは言え、私にとってはほぼ全員が初対面に近い。いずれにしてもほとんど面識が無かった人も多かった。それでも数日間かけて、会える限り全員に会って、しっかりと頭を下げて来た。

 意外にもあっけらかんとした様子の人が多かったけれど、中にはかえって戸惑う人や、厳しい言葉を投げかける人も居て。けれどそれが、激励の裏返しであることも察した。

 

 しかし唯一DFco.の社長には門前払いをされた。秘書のアルーシュから聞かされた伝言によれば「私は忙しいのだ。貴様のような甘え切った餓鬼に、直に手を下す暇も惜しい。精々生き抜いて、存分に社会で打ちひしがれると良いだろう。それが何よりも貴様にとっての罰になる筈だ」とのことらしい。

 

「あなたは新たに生きる意味を見つけた。だから実際のところはあの人も、遠回しに応援してくれているのよ。本当に不器用なツンデレなんだから」

 

 社長からの伝言を読み上げると、アルーシュは小さなため息をつき、やれやれと言った調子で微笑んで見せた。そして直後に入った通信へ応答し、一気に顔から血の気が引いていたことについては深く聞かないでおいた。

 私たちは社長室の外に居たというのに、どれだけの地獄耳をしているのだろう……。

 

 ハイドに謝った時、彼はひとしきり私の謝罪を聞いてから、何も言わず私の頭を撫でた。それから「これからは、ロゼとも仲良くしてやって欲しい。境遇のせいか同年代の友達があまり居ないようでな」とだけ言った。

 私が生まれた時にはもうお父さんは居なかったけれど、親心と言うものの一端に触れたような気がして、思わず涙腺が緩んでしまいそうになった。

 ロゼはロゼで大して気にする素振りも見せず、むしろ「これから何か困ったらいつでも相談してね」なんて逆に気を遣われてしまった。それから「ちょっとだけ楽しかったから、良かったらまたIDFに乗せてくれない?」なんて言い出し、ハイドが「お願いだから、それはもう勘弁してくれ」と懇願していたのが印象に残っている。

 

「あー……うん、社長はね……ちょっと怖いよね……」

「交渉するときも、本気で斬りつけてきそうな迫力だったもんね」

「あの時もう本っ当に怖かったんだから!」

 

 ユカリと笑い合いながら、いきなり彼女の表情が凍り付く。そして何やらホログラムの端末を操作し出したので、私も全身を悪寒に襲われながら身構えた。この上なく真面目な面持ちで端末と向かい合うユカリに、恐る恐る聞いてみる。

 

「連絡、誰からだった?」

「ルベルから、だった」

 

 2人して脱力し、深くため息をつきながら胸を撫で下ろす。

 

「社長に聞かれたかと思った……あ、ルベルがいつでも来て良いって」

「いや、まさか……ここカフェだよ?」

「だよね、いくら地獄耳だからって聞こえてるワケ……」

「ああ、そうだな。いくら私でもオラクル中の会話を拾いきれはしない。……――例えばこうして、偶然その場に居合わせたりしない限りはな」

 

 

 

 

 

 

 全速力で残りのハンバーグをかき込み、超速攻で会計を済ませ、無我夢中で走り出して逃げたので、ちょっと脇腹に鈍痛が襲い掛かっていた。ユカリも手近な柱に寄り掛かり、なんとか呼吸を整えようとしている。

 どうやらDFco.のアルーシュ、ホール、クラリス、そして社長の4人がカフェへと昼食を摂りに来ていたらしい。普段は社内の食堂で済ませているらしく、ユカリは「まさか……よりによって……そんな珍しいことが今……」などと息も絶え絶えにぼやいていた。

 ダークファルスマジダークファルス。油断も隙もあったもんじゃない。

 

 命からがらの思いで私たちが駆けて来た先は、ウィリディスのマイルームの前だった。ユカリが扉に備えてある端末を簡単に操作すると、ルベルの返事と、小走りでやって来る足音が扉の向こうから聴こえる。

 それから小さな機械音を立てて無機質な扉が開き、向こうからルベルが姿を見せた。

 

「いらっしゃい、2人とも」

 

 導かれるまま部屋の中へ案内されると、横長のソファに腰かけて紅茶を飲むアリシアの姿があった。私もユカリも驚いて目を丸くしていると、アリシアは笑顔で軽く手を振って会釈する。

 

「別の用事でルベルさんに会いに来たら、2人も後から来るって聞いて。待たせて貰っていたんです」

 

 アリシアには数日前にも謝りに行ったけれど、彼女はどうやら単に友達としてユカリに会いたかったようだ。ユカリもまたアリシアの方へ寄っていくと、紅茶の種類を聞いたりしている。

 かと思えばアリシアは私の方を向いて「透藤さんも、一緒にお茶菓子どう?」と聞いた。どうやら私も彼女の中で「友達」としてカテゴライズされているらしい、なんて思って、少しだけ嬉しくなる。

 

「それを聞くのは本来、わたしの役目だと思うのだけれど」

「あ、ルベルさん……ごめんなさい」

「べ……別に咎めたワケじゃないわよ。ひとりじゃ食べきれなくて持て余していたから、かえってちょうどいいわ」

 

 ダークファルスにはツンデレが多いのだろうか。

 招かれるがままにソファへ座って、勧められるがままに茶菓子へ手を付ける。バケットには、地球でも見たことのあるクッキーが幾つも盛られていた。ルベルがティーポットにお湯を注いでいる間、ユカリは早速クッキーをひとつかじり、私もおずおずと手を伸ばす。

 口の先で軽く砕けたクッキーから、優しい甘みが広がった。アリシアがそんな私の様子を眺めていたようで、彼女は微笑みかけて見せると「おいしい?」と聞いた。思ったより強く頷いてしまう。

 

「あ、こないだの女の子じゃねえか」

「……んう……? ユカリたち、もう来てたの……?」

 

 不意に背後から声が聞こえたので、少しだけ肩が跳ねる。振り向いてみると、そこには目付きが悪い青年と、やけにしんどそうな様子のウィリディスが居た。目付きが悪い方の青年は確かナオキという名で、ウィリディスの戦友であると聞いている。

 ウィリディスは具合が悪いのだろうかと不安に思って見ていると、ルベルが呆れた様子で溜め息をついた。

 

「昨日の晩、2人してずっと飲んでいたのよ……お酒を」

「ああ……なるほど……」

「昨日の暴れっぷりは見物だったよな」

「本当、このコはお酒が入ると手に負えないんだからァ」

「……んん……」

 

 ルベルと同じく、やれやれといった感じで、背の高いオカマ口調の美男……アーテルも続いて部屋へ入って来る。

 何でも彼らはようやくの休みだからと、夜遅くまで酒盛りしていたらしい。こう見えてウィリディスはかなり酒乱の癖があると聞いている。きっと飲み過ぎで二日酔いが酷いのだろう。ルベルとアーテルにたしなめられながら、ウィリディスは意識も虚ろな様子だ。

 どうしよう、彼らの座る場所が無いや。少しだけどうしようかと考えると、私が何かを言うよりも先に、彼らは自分でフォトンの椅子を作り出して腰かけた。

 そういえばユカリがオラクルで目覚めた日に、ルベルも同じようなことをしていたっけ。

 

 一同が腰を下ろしてから、幾らか世間話が交わされたあと、話題は自然と今後のことについてへと流れて行った。ウィリディスは新たにチームを作り、独自に追っている案件や、アークス全体にとっての仇敵である【深遠なる闇】の問題を解決すべく動くつもりらしい。

 ルベルは半ば当然ながら、アリシアもそのメンバーに加わるつもりらしかった。ナオキは加入こそしないものの、別動隊としてウィリディスたちに助力するらしい。そのための話し合いを兼ねて、昨晩は飲み明かしていたらしいけれど……本当だろうか。

 

「私もアークスとして生きていくつもりです」

 

 ユカリは真っすぐな目で、そう言った。

 元より彼女の戸籍は地球に存在しない。そして全身がエーテル体で構成された彼女は、いわばフォトンを操るという、アークスにとって必要不可欠な才能の塊である。エーテルとフォトンは非常に近しい物質であるらしく、フォトンが日常で活用されているオラクルでこそ、彼女の真価は発揮されるようだ。

 ただ本人曰く、そういう環境や才能の問題よりも何よりも、やりたいことがあるらしい。

 

「オラクルへ来て、私が色んな人に支えられ、助けられたように、今度は私がそうしたいんです。誰かを助けられるように、手を差し伸べられるようになりたいんです」

 

 私の写し身である「死にたがり」の面影は、どこにもない。

 その場にいる誰もが、ただ静かに彼女の言葉を聞いていた。

 私もまた、ただ彼女を見ていた。

 誰かが眩しく見えるとは、きっとこういうことを言うのだろう。

 

 

 

 

 

 

 ユカリは、オラクルに残ることを選んだ。

 そして同時に私もオラクルでアークスとして生きてみないかと誘われた。具現武装の力を振るえば、きっとそれも出来るのだろう。首を縦に振れば、塊素やウィリディスたちはそのための手筈を整えてくれるのだろう。何よりユカリを通して見た、聞いた、触れた、あの人たちと過ごし、冒険する毎日はとても魅力的に思える。

 それは何て素敵なのだろう。でも私は――……。

 

「私は地球で生きるよ」

 

 アークスシップのステージエリア前。

 遠くにはミニチュアのような市街地、さらに遠くにはどこまでも突き抜けていくような蒼穹が広がっている景観の前を、私たちは歩いていた。

 ユカリは驚いたように私を見たが、ひとつだけ「そっか」と言うと、黙って頷いた。

 オラクルの人々に、これ以上の迷惑をかけることが心苦しいのも事実だけれど、本当の理由は別にある。

 

 本当は知っていた。生まなければ良かったと叫びつつも、私に暴力を振るいながらも、それでもどこかで私のお母さんは私を愛そうとしていたことを。

 本当は知っていた。PSO2をプレイするアバターの姿が私に瓜二つだった理由も。

 本当は知っていた。最期の時に、突然の襲撃で深手を負ってしまった私を、必死の形相でダーカーから庇おうとした理由も。

 本当は知っていた。私はお母さんを憎むことで、やっとその死を受け入れていたのだと。

 本当は知っていた。あんなお母さんでも、それでも死んで悲しかったのだと。

 本当は知っていた。あんなお母さんでも――心のどこかでは、私を愛していたのだと。

 

 知っていても向き合うことが出来なかった。だからあの時、私は血だまりに沈んでいくお母さんを、ただ何の感慨も持たずに呆然と見つめていたのだ。

 ただ今は分かる。人の心も、運命も、世界も、決してひとつの色だけではない。たとえこの世の端から端まで絶望で覆い尽くされているように見えても、決してそうではない。良くも悪くも、世の中何があるかなんて、誰にも分からない。

 だから。

 

「私は、一度は自分が絶望した世界に……どんな楽しいことがあるのか見つけてみたい」

 

 今はしっかりと勉強し直して、バイトも頑張って、大学を目指してみようと考えている。世の中にはまだ私の知らないことが多すぎて、それを学び直してみたい。私の知らない人たちが居る場所へ飛び込んで、色んな人となりを見てみたい。

 オラクルだって、そこに生きる人たちだって、とっても素敵で輝いている。でもきっとそれは、彼らが自分の意志で、自分の生きるべき道を切り拓いてきた人たちだから。

 輝いて見えるのは、ユカリが迷い、戸惑い、悩みながらも、自分で切り開いた世界を、彼女の目を通して眺めてきたからなのだと思う。

 

 今度は自分がそうなりたい、と仄かに、しかし強く思ってしまった。

 誰にも頼らず、とはいかないだろう。きっとこの先、まだまだ数えきれないほどの苦難は待ち構えているのだろう。大学選びにしたって、学科と学部の違いがまだよく分かって居ないという有り様。前途は多難と言える。

 けれど自分の力で、私もユカリのようになってみたいと――本当の意味で生きてみたいと思ってしまった。

 生きるために必要なものは、たったそれだけなのだと理解する。

 

「でもマザー・クラスタのことを考えると、やっぱり縁に護衛は必須だよねえ」

「うっ……早速、頼らせていただきます……」

 

 さすがに生きたいと思った傍から粛清されてしまうのは、まっぴら御免被りたいので。何せ私は独断で暴走しかけた挙句にマザー・クラスタを抜けた裏切り者だ。正直、地球へ帰るのも割りとめっちゃ怖かったりする。

 ただ、こればかりは本当に不思議だけれど……あのマザーが私を殺すとは思えないのも事実である。明確な根拠はなく、確信のようなものだけがあった。

 あるいは私に優しい言葉をかけてくれた、孤独な私の気持ちを分かってくれた、マザーこそが本当は誰よりも……実は孤独だったのではないだろうか。

 

「縁、どうしたの?」

「なんでもないよ、ユカリ」

 

 それこそ明確な根拠もないや、と首を振った。

 

「それで、テレポーターってどっちだっけ?」

「こっちだよ、ほら、向こう側」

 

 私は期待する。2つの世界を渡り歩いた、私たちが歩いていく道筋の全てに。オラクルで出会った人々と歩む未来に、これから地球で出会う人々が待つ未来に。

 そしてユカリに手を引かれながら、私も駆け出す。燦々と陽光が降り注ぐ中、足取りと心はとても軽く、意味もなく口の端が上がってしまいそうなほどに気分は上々だ。

 

 

 

 

 

 

 弱火か中火で煮えるようないきぐるしさを味わいながら、呆然漠然だらだらふらふらと生き永らえる方が良いか。

 それとも、たとえいま死ぬほど痛かろうが苦しかろうが、一気に引き受けて終わらせてしまう方が良いのか。

 どちらの方が良いかと聞かれた時、今の私はこう返すだろう。

 

「どちらも嫌なので、自分が幸せになれる生き方を探したいです」

 

 今思い出しても、出ばなからあまりに非現実的な出来事だったと思う。ただの夢を見ていただけだと言われても仕方はないし、それほどに私や、私たちの世界からすれば、私が体験した一連は空想じみている。

 それでも私は胸を張って言い切れるだろう。私が出会った彼女ら、彼らは確かにそこに居たし、私が作り出した「私」……ユカリもまたそこに居た。

 誰かの存在証明に頼らなくても、私は、そしてユカリは自らそれを主張できるだろう。

 

 ――これは、死にたがりの私・透藤縁が「まだ生きていたいな」と思うまでの、ユカリという幻創の物語だった。

 そしてこれからは、ただひたむきに生きることを決めた、私たちの物語が始まってゆく。

 

 

 

 

Endless storyEnd.NextPHANTASY STAR ONLINE 2 EPISODE4



 

 

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