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小説『Endless story』#6-3

 #6-3【MY ENEMY'S INVISIBLE, I DON'T KNOW HOW TO FIGHT

 

 

 

 閃光が振り抜かれた後に、黒い残骸が続いた。

 ワープして迫るディガーダに、刃が深々と突き刺さる。さらにディガーダは、思い切り投げ飛ばされてエル・アーダへと衝突する。

 踏み込んだルベルの力強い一刀が、2匹をもろとも両断した。

 ルベルの後から続いて、ロゼとユカリが駆け抜ける。めがける先にはキュクロナーダ。単眼の巨人が長大な腕を、華奢な少女ふたりに向かって振り上げる。そして少女たちは、成す術もなくその餌食に――はならず、ロゼの放つ切っ先が軌道を逸らす。

 そのまま右からはロゼが、左からはユカリが、渾身の斬撃を放つ。単眼の巨人は歪んだ断末魔を上げながら、緩やかに崩れ落ち、黒と赤の粒子になって消えた。

 ロゼは峰を肩に担いで、高台から眼前を見下ろす。そこには、漂うダーカー、ダーカー、ダーカー。さすがに巣窟と呼ばれるだけあって、いくら倒してもキリがない。それどころか、倒したそばから増えていくようにすら思えた。

 

「でも、なんとか目的地まで近づいてきたね」

「油断は禁物よ、ダーカーの巣窟では何が起こっても不思議じゃないわ」

 

 ダーカーの巣窟が、どのようにして成り立っているのか。その構造も、神出鬼没である理由も厳密には解明されていない。磁場も、キャンプシップが引きずられるほどに不安定であったり、アークスが歩ける程度の重力を有していたりと謎ばかりが多い。

 

「……ん、あれ……」

 

 ロゼが、何かを見つけた。

 彼女が指さす先には、人影がある。ダーカーのものではない、おそらくはアークス。

 

「お父さん……じゃない、か」

 

 ハイドであれば、シルエットで分かる。こちらへ向かって歩いてくるのは、アークスに支給される、クローズクォーターというコスチュームに身を包んだ男性だった。

 

「妙ね、こんなところにわたしたち以外のアークスが居るなんて」

「私たちと同じように、漂着してしまった人でしょうか」

「だとしたら、一緒に合流地点まで行った方が良いよね!」

 

 言うなり、ロゼが高台から飛び降りて走り出す。

 

「あ、ちょっとロゼ……!」

 

 ルベルが呼び止めようとしたが、ロゼは男の方へ駆け寄っていく。

 しかし男の顔が見える辺りまで近づいて、ロゼは違和感を覚えた。表情に生気はなく、視線もどこか虚ろだ。男はようやくロゼの接近に気付いたようで、何を思ったのか不意に青いフォトンの大剣「ヴィタソード」を取り出す。

 ロゼは嫌な予感を覚えて、半歩後ずさり、抜剣「ノクスサジェフス」の柄に手をかける。

 

 そして、一気に距離を詰めてきた男の斬撃を、すんでのところで受け止めた。

 

 フォトンアーツ「ギルティブレイク」。脚にフォトンを込め駆け抜け、慣性を利用しつつ逆袈裟に切り上げるという技だ。生半ではない威力に肩まで衝撃が響く。強引にいなし、ロゼは事なきを得た。

 ――威力、挙動の速さ。この男、低く見積もっても只者ではない。

 

「ロゼ!」

「ロゼさん!」

 

 後から駆け付けたルベルとユカリの2人も得物を抜き、男に向けて構える。

 男もまたヴィタソードを構えなおしたが、ふたたび左右から良からぬ気配がする。視線だけ向けてみれば、ロッドとライフルを持ったアークスの姿がそれぞれ1人ずつ。

 その表情はやはりヴィタソードを持った男と同じく虚ろで、生気がない。まるで何かに操られているような、いびつな無機質さを醸し出していた。

 

「この人たち、いったい……?」

「ウチの家主から聞いたことがあるわ……ごく稀に、アークスの模倣体と出くわすことがあるって」

「アークスの模倣体、ですか?」

 

 無邪気で残酷、愉悦のまま気の向くままに破壊を振りまく悪意の化身「ダークファルス【双子(ダブル)】」。ダーカーの王が一角である、彼らの権能は「模倣体の生成」だ。

 たとえばかつて惑星を模倣し、それを衝突させ、滅ぼしたことがあった。

 たとえばかつてダークファルス【敗者】を喰らい、その模倣体を量産したことがあった。

 たとえばかつて惑星の先住民を半数喰らい、その模倣体を作り出し、何もなかったかのように装ったことがあった。

 

「というコトは、彼らは【双子】に食べられてしまったアークスの成れの果て……!?」

「……――いいえ。模倣体だからと言って【双子】に食べられたとは限らないわ」

 

 ルベルの声が聞こえた。

 しかしそれはユカリの隣からではなく、もっと後方から。

 

「このダーカーの巣窟そのものが強大なダーカー、つまりダークファルス【双子】の残滓から成り立っているの。そして、あなたたちはここへ巻き込まれた時点で詰んでいた」

 

 ユカリは、背骨を直に撫でられたような悪寒に苛まれる。

 振り返ると、そこには2つの人影が――ルベルと、ロゼの姿があった。すなわち彼女らも、模倣体を作られてしまったのだと気付く。

 3人の少女を包囲するのは、5名のアークスの模倣体、そして修羅場を嗅ぎ付けたのかダーカーの大群。

 凡百のダーカーならばまだしも、自らのコピーに加え、おそらくは手練れのアークスとなれば、情況を軽く見ることは出来ない。

 

「これは……少し、マズいわね」

 

 ルベルの頬に、一筋の汗が伝う。

 示し合わせたかのように、少女たちへ向かって――容赦のない一斉攻撃が迫った。

 

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