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小説一章 Ⅰ

お待たせ。やっと始まります。


 
ミスキノの里。
惑星ハルコタンにある辺鄙な里ではあるが白の領域と黒の領域、その2つの境にある里だ。
白の民でもなく、黒の民でもない彼らはいつしか灰の民と呼ばれるようになった。
 
ミスキノの里は東西で川を挟むようにして街の様子はガラリと変わる。
東は商人たちが行き交う騒がしくも楽しい街。西では艶やかで、美しい街である。そして北には大きな神社がある。
 
「おや、時貞様ではありませんか。お久しぶりでございますね」
 
西側の遊郭の一つ、宿も経営している櫻楼閣の入り口に青年がいた。黒い髪に水色の瞳。刀を腰に一振りだけ帯刀している彼は時貞と呼ばれていた。
 
「こんばんは。すみません、無月(ムツキ)はいますか?」
 
「旦那ですか?」
 
「うん。ちょっと彼と話がしたいんだ」
 
「……わかりました。ではこちらにご案内します」
 
従業員の後について櫻楼閣に時貞と呼ばれた青年が入ると女性の黄色い悲鳴があがる。
 
「時貞様だわ!」
 
「あの方がいらっしゃるなんて、久しぶりじゃないかしら?」
 
「いつもお酒とお料理を食べていかれるだけだもの、私たちのお相手はしてくれないのかしら……?」
 
「無理無理。新人の子が試しにやったらしいけど、やんわりと断ったらしいわよー」
 
女性たちの話が聞こえてきたのを騒がしい、と思われたのだろうかと従業員は危惧して時貞に声をかけた。
 
「すみません。騒がしくて」
 
しかし彼は気にした様子もなくニッコリと微笑んで答える。
 
「大丈夫ですよ」
 
 
一室に案内され、料理とお酒をつまむように飲んでいたり食べていたりしていて、しばらくすると一人の男がやってきた。
髪は薄紫色、瞳は宝石の様な紫色で、薄墨色の着流しを着ている。やはり彼も腰に刀を帯刀している。
 
「お前がわざわざくるとはな。どうした?」
 
「東にいたなら椿(ツバキ)を使いにやらせたけど、今日は西に居たみたいだから。あの子は一応女の子でしょ?だから俺がいいかなって思ってね」
 
「椿……あぁ、あの小さな」
 
「言ってやるな。本人身長微妙に気にしてるらしいから。お久しぶり、無月」
 
「‘その’姿では久しぶりだな、時貞。いや、時雨」
 
無月と呼ばれた薄紫色の髪の男性が彼を呼ぶと苦笑を返す。
 
「市井だと時貞って呼んでくれよ。まぁ、誰もいないならいいけどさ」
 
時貞、もとい時雨の向かいに無月が座ると盃にお酒を注いで渡す。無月は受け取り、すこしあおると、時雨に問いかけた。
 
「で、何でお前が此処に来てる?」
 
「最近市井が騒がしいって聞いてね。情報を集めてるのさ。知らないかな、無月?」
 
「騒がしい、ねぇ……情報屋を探した方が早いだろうに」
 
すると時雨はすこし嫌そうに顔をひそめた。
 
「下手すると俺の情報を持っていかれるから嫌なんだ。その点無月は安心できる相手だからね。頼み事する代わりにこちらもちゃんと‘仕事’はするよ」
 
盃のお酒を無月が飲み下すとまるで口火を切るかのように話す。
 
「最近、盗みが多発してる、ってのは聞いたことがあるか?」
 
「盗み?なんでまたこんな里で」
 
「こんな里だからだろ?」
 
「平和なのは歓迎すべきだけど、平和ボケしすぎてるのも問題、と」
 
「いや、問題はそこじゃない」
 
「というと?」
 
時雨の目がついっと細くなり、真意を探るようにして問いかけた。
 
「魔法は、特別な人にしか使えないだよな?」
 
「魔法を扱える人は把握してるよ?俺、カイ、お雪、椿と紗羅(サラ)のはず」
 
「属性は?」
 
「雷・風・炎が2人、弱いけど癒しの力だな」
 
「……氷の魔法を使うらしい」
 
「盗っ人が、か」
 
「あぁ」
 
無月が頷いた瞬間、櫻楼閣の外が騒がしくなる。
 
 
オマケ
誰がドレ?と思われそうなので解説もどき。敬称略。
 
カイタマノミコト(海珠の命)
塊素。ミスキノ神社の宮司さん。
 
時雨・斎の命・時貞
セリオス。妖狐。神社の禰宜さん。
 
椿
クラリス・ラメント。妖狐。神社には滅多にはいないが巫女さん。
 
お雪
白狐。妖狐。彼女も巫女さん。
 
無月
溟砂。街の人。櫻楼閣の主人。
 
紗羅
クラリスリクレイス。街の人。東側に住んでる。
 

 

とまあ、名前が出たメンバーの紹介です。

 

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