手の内からこぼれる世界


 間幕

 大きな黒い羽。
 それを背に生やした“彼”は、化け物ではなかった。
 “彼”の姿はとても強く、ただ一つの事を物語っていた。
 “彼”は何者なのだろう。ここまで来て、その事が判らなくなった。

 《闇》に手を差し伸べる“彼”。
 本来ならば、それは人間に反逆する行為であり、その存在を抹消されるべき存在であるはずなのに……。

 自分に手を差し伸べてくれる“彼”。
 本来ならば、敵対するはずでありながらも、ただ一つの言葉を使って私を助けてくれようとする……。

 “彼”は何者なのだろう。
 けれども、私は思った。
 黒き羽を広げる“彼”。
 《闇》との共存を許し、そしてそれを果たした“彼”。

 私を抱きしめてくれた。
 とても温かかった。
 身体が温かかった。
 心が温かかった。

 今はただ、“彼”から離れたくない。
 もしかしたら、“彼”は私の望みを叶えてくれるかもしれないから。

 今まで、叶えられることはないだろうと思っていた望み。
 ただ思う度に無力感に苛まれるしかなかった、ただ一つの望み。

 “彼”ならば叶えてくれるかもしれない。

 “彼”は、人間だから――。