31.「夢をなくした」
僕はひねくれた人間です。
だからこそ、教えられることもある。
世界征服がしたいんだ。
だけれども、
君はそのあとどうするの?
世界征服したとして、
君はそのあとどうするの?
世界の頂点に立ったとしても、
君の望むような夢は実現しないだろう。
見たくもない現実を見るだろう、
頂点としての仕事もあるだろう、
おそらくは、休みたいのに休めない。
最後には、ただの飾りとなるかもしれない。
それでも君はいいのかい?
そうかい、君はとりあえずしたいんだ。
君はとても無邪気なんだ。
夢を無くしたのは僕の方。
君はとても輝いて見える。
君は、夢を持っているのだから。
32.「やることがない」
僕はひねくれた人間です。
だからこそ、やりたいことがある。
朝早くの街を歩くと
開店前のパチンコ店に
大勢の人がいるのです。
彼等にはやることがない、
パチンコで遊ぶしかないのでしょう。
だけれども、
僕は、彼等みたいになりたくない。
他にすることがないという、
彼等みたいにはなりたくない。
だからこそ、
僕はやりたいことを探してる。
見つからないのであるならば、
創り出せばいいでしょう。
僕はやりたいことをやるのです。
退屈よりはいいでしょう。
33.「うらやましい」
僕はひねくれた人間です。
だからこそ、手に入らないものもある。
うらやましい。
僕は君がうらやましい。
君は僕にはないものを持っている。
君は僕に多くのものを与えてくれる。
うらやましい。
僕も君のようになりたいんだ。
だけれども、
それは、
僕には手に入れられないもの。
それでいい。
世界はいつでも不平等。
僕が持ってないものを
君が持っているからこそ
世界は楽しくなるのです。
山があって谷がある。
世界はそこで変化する。
平等で変化のない世界よりは、
不平等で変化ある世界の方が
絶対楽しきものとなるでしょう。
34.「ここにいるべき人間」
僕はひねくれた人間です。
だからこそ、寂しい時がある。
もう、僕はここにいるべき人間ではない。
ここには、僕の上履きがないのだ。
ここには、僕の教室がないのだ。
ここには、僕の席がないのだ。
ここには、僕の友達がいないのだ。
ここには、僕のいる理由がないのだ。
僕は過ぎ去った人間。
ここから出ていった人間。
ここから出ていって多くのことに気付いた人間。
ここから出ていって多くのことに後悔した人間。
この学校で三年間過ごしたが、
そこにいたときには気付かなかったことが多かった。
自分の教室に付けられた傷に気付いてなかった。
誰もいないということの寂しさに気付いてなかった。
もっと多くのことがやれたはずだった。
しかし、そのことに気付かずに日々を過ごしてしまった。
再びここに来て、そのことに気付く。
ここは三年七組の教室だった。しかし、ここは三年三組になるようだ。
僕の椅子と机は新しいものに取り替えられていた。
その時のショックはかなり大きかった。
うろおぼえの教室の形。本当にこの教室が僕が一年間過ごした教室なのだろうか。
わかっているのは、僕は425教室で過ごしていて、ここが425教室であるということだけ。
壁に自分の名前を書いておけばよかったと思う。
ここには僕がいたと証明するものがない。
僕がいたという痕がない。
すべては過去のことになってしまった。
すべては思い出の中となってしまった。
僕はここにいるべき人間ではない。
僕は進まなくてはならない。
後から来る人たちには、多くのことを語り合い、
時には写真をとり、楽しく笑顔で生きてもらいたいと願う。
精一杯、楽しんでくれ。
35.「人間が真似たもの」
僕はひねくれた人間です。
だからこそ、口ずさむことがある。
ある時、
音楽とは自然の中に存在するものを、
人間が真似たものだと聞いた。
だけれども、
人間には自然の音を完全に真似することが出来なかった。
だからこそ、
人間は手を使い楽器を使って自然を感じ取ろうとした。
だけれども、
楽器では表わすことの出来ないものがある。
だからこそ、
僕はそれを表わすことの出来る、
人間の最初の楽器を使います。
さあ、今日も高らかに歌いましょう。
怒りに震えていようとも、
悲しみにうずくまっていようとも、
私たちは、
言葉を使って歌うことが出来るのです。
36.「壊すことは楽しい」
僕はひねくれた人間です。
だからこそ、壊すこともある。
無邪気な子供は、
自ら組み立てた積み木を壊して笑うのです。
人々は、“それが人間の本能だから”と言いました。
つまり、人間は物を壊すことは楽しいと知っています。
だけれども、壊してばかりではないことも知っています。
人間は、多くのものを生み出しました。
人間は、多くのものを創り出しました。
人間は、壊すことを楽しいと感じます。
だけれども、
人間は、創ることを嬉しいと感じます。
だからこそ、
僕は人間が好きです。
たとえ、その姿が美しくても、
たとえ、その姿が浅ましくても、
僕はその姿が素晴しく思えます。
それが人間の、本当の姿なのですから。
37.「自分を無くす」
僕はひねくれた人間です。
だからこそ、悩むこともある。
なぜ、人々は自分を作るのだろう。
なぜ、心を隠して他人に気に入れられようとするのだろう。
きっと僕は知らないんだ。
人々が自分が偽る理由を。
きっと僕は解っていないんだ。
人々が耐えなければならない辛さを。
だからこそ、
人々はいつしか自分を見失って、
他人を傷つけてしまうのだろう。
だからこそ、
人々はいつしか周りが見えなくなって、
本当の笑顔を忘れてしまうのだろう。
僕もそうなるのだろうか。
僕もいつしかは自分を作り、自分を無くす時が来るのだろうか。
それならば、
僕は今のうちに、語っておこう。
僕は今のうちに、書いておこう。
僕はここにいた。
僕はこんな奴だった。
僕はこんなことを考えていた。
だからこそ、
僕はこの先も生きていくことが出来るだろう。
僕は今、自分を持っているのだから。
38.「創らない」
僕はひねくれた人間です。
だからこそ、逃げたくないこともある。
素人の創った物語は
つまらない物だとみんな言う。
玄人の創った物語のほうが
面白い物だとみんな言う。
だけれども、
だからこそ、
僕は物語を創りたい。
僕は
物語を創ることには素人です。
だけれども、
それだからと言って
物語を創らないなどと言いたくはない。
素人だからこそ創りたい。
たとえ下手であったとしても、
創ることは
とても嬉しい事だから。
39.「死なす場所」
僕はひねくれた人間です。
だからこそ、見つけられないものもある。
病院で、
この先長くない人に
生きて欲しいと言ってはいけないと叱られた。
僕には、
それは理解できないものでした。
病院は
人を生かすための場所であり、
人を死なすための場所ではない。
それなのに、
なぜ生きて欲しいと願っては駄目なのだろう。
なぜそんなにも、
悲しみに呑まれているのだろう。
なぜそんなにも、
“死”しか見ていないのだろう。
僕は考え続けている。
だけれども、
まだ、答えは見つかっていない。
だけれども、
いつか解る日が来るだろう。
“死”はいつでも
すぐそばに寄り添っているのだから。
40.「打ちひしがれている」
僕はひねくれた人間です。
だからこそ、手を差し出すことがある。
死ぬこととは、会えなくなること。
僕はそれを解ってる。
それなのに、
この胸に、
悲しみは湧きませんでした。
周りの人々は目に涙を浮かべて
別れの辛さに打ちひしがれているのに、
僕は
悲しみを感じませんでした。
僕の胸には悲しみではなく、
ただ一つの言葉のみが浮かびました。
また、いつかどこかの世界で
再び会える事を――
甘いと言われるかもしれません。
それでも僕は手を差し伸べて願います。
また、会いましょう。
|