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世界群歩行者達情報区 [冥王]オンライン小説投稿サイト 自由夢幻会場
01. とある夕暮れの河原にて ―― [とある夕暮れの河原にて]
投稿者/狩谷義朝 更新日/2011/05/06 23:29:26
「上出さん、一人?」
「何、冷やかしにきたの」
 騒ぐ級友達を尻目に、一人堤防に腰掛けて静かになったところだった。一番会いたくない神代さんがやってきた。
「私もあっちから離れたくなったんよ。ささ、一献」
 といって神代さんはコップを二つ並べ、ハイボールを注ぎ始めた。
「飲んでるの?」
「意外?」
 意外ではあった。真面目、規則通り、杓子定規……彼女のことはそう思っていた。
「大方、男子連中に飲まされたんでしょう」
 私はコップを一瞥して、ぶっきらぼうに答える。
「酌もしたよ?」
 ……この男たらし。
「いつも仲よさそうだね」
「そう? でも向う見てみなよ」
 騒いでいる男子達。女子も混じってはいるがやはり普段の神代さんほど輪に入ってはいない。やはり男子は男子、女子は女子という塩梅だ。
「私いなくても、あんまり気にされないのよね」
「私もそうじゃない」
「あら、来てあげたのにお言葉ね」
「別に頼んでもいないわ」
 面倒くさい。そうやって顔を背けると、神代さんはコップの中身を一口飲んだ。
「上出さんは受験の時、随分とキャラが変わったわよね」
「そうかしら」
「そうよ。前は仕事も熱心に引き受けてたのに年次が上がるとぷっつりと」
 というと、神代さんは少し思案顔をして。
「いや、むしろ初年から上がった時も変わったわよね。その前は割と無関心な顔をしてたのに」
 言われてみて改めて思う。私はずっと神代さんを意識していたのだろう。私は神代さんにはなれなかった。
「神代さんこそ、どうせ寝る間も惜しんで勉強していたのでしょう」
「あら、私の場合は寝る間も惜しんで遊んでいたの間違いだわ」
 また強がりを、と口には出さないが通じてしまう。
「私は本当に受験楽しんだのよ。自分のしたいことを考えて自分の目標を決めるというのは結構新鮮だったし」
 私の不審顔が気になったのだろうか、一度目を合わせて神代さんは続けた。
「だってそうじゃない? いままでは周りのこと事見て考えて、自分は何をすべきなのか? って考えだったけれど違うじゃない」
 私は何を考えていただろうか? みんなが進学するから受験する。受験するために勉強する。そういう思いでいただけだっただろうか?
 そして心の底には神代さんよりいい大学へ、などという邪な心があっただろうか。結果は言うまでもないことだった。
「余裕こきすぎだわ」
「確かにね。でも後悔してないのよ? 貴女は?」
 目を背けて、コップに口をつける。
「貴女にはずいぶん迷惑かけられたわ。約束はとんと守らないし、返事もしないし、物言いは棘だらけだし、いつ孤立して爆発するか、とっても不安だった」
「心配される謂われもないじゃない」
「そういう訳にはいかないわよ。みんな迷惑するじゃない……この物言いは優等生に過ぎるね」
 そこで神代さんは一度言葉を切った。
「要するに、私は私の周囲の空気が居心地が悪いのに耐えられないだけ。だから貴女のことも丸め込みたかっただけよ。私も貴女もエゴイスト。これで納得した?」
 できはしない。朝夕も昼も、無理に私に話しかけてくるのは疎ましかった。彼女は男子にも女子にも教師にも人気があったけれど、彼女が私に話しかけてくる時彼らは露骨に嫌な顔をしていたのだ。
「別の意味で爆発しそうになったわ」
「それは私の落ち度ね。でも、私にもどうしたら良いかわからなかった。貴女はどうしてほしかった?」
 どうして欲しかったのだろう。自分のことを認めて欲しかったのか。どうやって? 友達の一人でも欲しかったの? 友達って、何?
「私も貴女に話しかけるとき、どうしてもオフィシャルな言葉しか出てこなかった。用件としては楽だったし、尾は引かないしね。でもプライベートな話題は、乗ってくれるかしら? と尻込みしたわね」
「私も何の話なら合ったかなんてわからないわよ」
「貴女にだって友達の一人くらいいるでしょう。何か話さないの」
 黙り込むしかなかった。彼女のような社交的な人間の前で、友達と誇れる人はいなかった。確かに一緒に遊びに良く仲間はいた。でも何を話すわけではなかった。川の流れる音が轟々と響いていた。
「言いたいことあったらこの際だもの、言ってしまいなさいよ。もう皆で合うのも最後かもしれない、ほら、もう一坏」
 と、目の前のコップをハイボールが満たしていく。
 えい。
 一気に飲み干す。
 神代さんが大胆なやっちゃなぁ、と呟いた。飲ませたのは貴女だ。
「神代さんはいいよ、背も高いし、頭もいいし、成績だけじゃないよ機転も利くし、私が問題に気づく頃には貴女は解決してしまっている、だから男子も貴女のことは一目置いているじゃないの、私のことは愚図で鈍間と思っているに違いないわ、そうよ階段を歩く時ですら皆無思慮に抜いていく、神代さんなんて私からみたら目にも留まらぬ早さで歩いて行くわ、忘れ物もしないし、怪我もしないし、いつも用意周到じゃないの、とても真似ができないのよ、それなのに私ったら馬鹿なの、無理とわかってて小テストで一つ抜こうとか、徒競走で前に出ようとか、彫刻しようとか、いつも上手くいかないわ、それに貴女はいつも誰かと一緒にいた、女子も男子も教師もよ、特に男子を何人も侍らせて歩いているあたりは見逃せないわよ、見せつけてるんじゃないわよっていつも思ってた、女の子たちもみんな自分の長所を持ってるけど、自分については何なのかわからなかった、だから何か一つで誰かを上回ろうとして、いつも失敗しては挫折し続けた、そうよ阿呆なのよ、上を見ずに下を見れば幸せだったかもしれない、でも皆あれができる、これができる、神代さんにいたってはあれもこれもできる、私は?
 そんなに皆に聞いたわけじゃないけれど、貴女は貴女の長所をみつければいい、大概そう言われた、でもそれは何なの、私自身では見つけることができない、色々試したけど駄目だった、そんな長所なんてあるの、誰かに教えて欲しかった、でも誰もが言ったそれは一般論、私のことを見ていっているわけじゃない、そうじゃなくてもっと私を見て欲しかった、注目して欲しかった、きっと上辺だけの言葉しか私には掛けられることはない、多分私自身が上辺だけの言葉だけを投げ続けていたから、なぜ仲良くなれないのか、なぜ相談できないのか、なぜ話相手になってくれないのか、なぜ遊んでくれないのか、なぜ目を合わせてくれないのか…… みんなが迷惑を掛けられるならそれもいいかなと思ったわよ」
 やはり、酔ったようだった。神代さんの顔を見るのが怖かった。どんなに怒られるだろう、急に冷水を浴びせられたように冷静になっていく自分がいた。同時に、口は半開きのまま止まってしまっていた。
「うーん、私は迷惑掛けられるのって割と好きなんだよね」
 ……また、そんなことをいう。
「それに、私は上出さんにどうしても勝てないのよね、胸だけは」
 なっ、と顔を上げた時には神代さんは花火を始めた男子達の為に、川の水を汲みに堤防を下りて行った所だった。

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