01. request ―― [request] |
投稿者/jojogaraba 更新日/2010/05/30 01:59:01
君の願い事はなに?
何でもかなえてあげるよ。 そのかわり、最後にひとつだけ、僕の願いをかなえてくれればね。 「request」 僕の目の前に、突然現れてそう告げた。 願いをかなえてくれる。 この小さな少年が? 黒い長袖シャツに、黒い長ズボン。 黒い帽子をかぶっていて、いかにも怪しい。 世の中、変な人も増えたなぁ。 まだ子供なのに。 僕はからかってやることにした。 ―何でも願いをかなえてくれるって? ―そうだよ。何でも。 ―じゃあさ。 とても不可能な「願い事」を。 ―今すぐ、僕を家に帰らせてくれないかな。僕の部屋に。 ここから自宅までは十数キロは離れている。 どんなに車をとばしても十分はかかるし。 ―そんなことでいいの? そんなこと。 随分と大きな口を叩く。 ―それでいいよ。君にできるのなら。 ―君、信じてないね。僕のこと。 当たり前だ。 突然願いをかなえると言われて信じる人などどこにいるだろうか。 ―じゃあ、時計を見て。 本当にやるの? 二十一時三十七分。 ―じゃあ、いくよ。 そう、言われた瞬間には、見慣れた部屋の中にいた。 ―え… ―どう?本当だったでしょ? そこは、紛れもなく自分の部屋だった。 ―な、んで… 時計は二十一時三十八分をさしている。 ―だから言ったじゃない。君の願いを何でもかなえてあげる、って。 ―本当…なの? ―うん。 僕の、願いを…? まだ、信じ切れない。 けれど、今部屋にいるのは… 催眠?セット?それとも日をまたいで…? 部屋の中のものと、外の景色、そして言いようのない現実感が、それを否定する。 ―まって、じゃあ、じゃあ来週の雑誌を見せて。 ―小さいね、君。 ―そんなことどうでもいい。早く早く。 はい。といわれた瞬間には、見たことのない雑誌が。 表紙に刻まれた数字は、今日買った雑誌より一号進んでいた。 三号も進んでいると、さすがに確かめようのないことに気づいたけど。 もし、これが本当に一号進んでいる内容ならば。 ―君は、いったい… ―何でも願いをかなえてあげる、っていったでしょ。それだけだよ。 その後も、連日にわたり色々「願い事」をしてみた。 ステーキが食べたい。 足が速くなりたい。 朝早起きできるようになりたい。 遅く寝ても朝には元気なからだがほしい。 宝くじに当たりたい。 好きな子に告白されたい。 空が飛びたい。 とにかく、思いついたことをあれこれ言った。 ステーキは、その日の夕飯におかずとして。 足は、体育のときに記録が伸びていることを確認。 朝は毎日5時には目が覚めて。 夜更かししても平気になった。 宝くじは、十万円当たって。 気になるあの子にも本当に告白されて。かわいかったなぁ。 空は、なんかもう、本当にこの身一つで飛べてしまって。 すべてがかなった。 大きいこと小さいことかかわらずに。 先週もらった雑誌も、本当だったことも確認できた。 ―本当、なんだね。 ―やっと信じてくれた? もう、何も疑う余地もない。 空を飛んだあたりから、もう何でもありだなと思って。 ―お金、頂戴。 ―いくら? ―そうだなぁ…百万円の百万倍。 百万の百万倍。 数えると…ええと、めんどくさいや。 ―ははは…大きくでたね。 ―せっかくかなえてもらえるんだし。どうせなら大きく。 この願いもかなった。 家に帰るとよくわからない黒いスーツを着た怖そうなおじさんたちがたくさんいて。 なんだかよくわからないうちに、僕に百億円がもらえるという話になって。 なんだかよくわからないうちに、とても大きな家に引越しになって。 ―コレもかなっちゃった… ―何でもかなえる、っていったでしょ。 そう、何でもかなった。 僕の願い事は。 ―そろそろ、満足かなぁ。 ―君から話しかけてくるなんてめずらしいね。 ―はは。ねえ、あとお願い事、あるかな? 僕は考える。 お金はもらった。 恋人もできた。 僕の人生、ほかに求めることなんてあるかなぁ。 ―ない、かなぁ。 ―そう、じゃあ約束どおり。 約束? ―そう。約束。忘れちゃった? 約束。 ―最初にいったよね?君の願いをかなえる代わりに。 僕の願いをかなえる代わりに。 ―僕の願いをひとつだけかなえて、って。 君の願いをひとつだけかなえる。 |