笊蕎麦−笊の隙間に入った蕎麦に恨みを込める呪いのアイテム。蕎麦だけでも、簡単に人を殺せる。つまり、凶器。

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氏名 永谷 園(ナガタニ ソノ)
性別 男性 時々 獣w
年齢 一五歳
生年月日 宇宙世紀〇〇七九年(それなりの年) 月は東に日は西に(デフォルトは2月29日)
血液型 出光ハイオク
病歴 ぎっくり腰
   コスプレ症候群
現住所 〒360−0021 埼玉県熊谷市平戸(さいたまけんくまがやしひらど) 00−16 和音(わおん)マンション 鉄人28号
電話番号 360−110−2591
保護者 父 永谷 茶介(ナガタニ チャズケ) 三一歳 骨董品屋
    母 日本名:木屋町 朋衛(キヤマチ トモエ) 不詳(外見は18歳程度) 魔女
兄弟姉妹 妹 永谷 猫美々(ナガタニ ネコミミ)一五歳 テロリスト
現職 熊谷市市立 ヴァルハラ高校在学 一年六組二七番
学力(絶対評価) 核爆
学歴 九一年 平戸小学校卒 総合評価 5段階評価(相対評価) さくら
   九四年 縁(エニシ)中学校卒 総合評価 5段階評価(絶対評価) すみれ
資格 かめはめ波1級 ニュータイプ検定4級
賞罰 イエローカード1枚(戦闘中に炎属性使用禁止≠フロウを破った)
   奨学金 月900円(テトリス世界大会で1位になった為)
備考 自転車通学でヘルメット着用
   母親は黒魔術の最高権威



 それが、永谷園の簡単な資料であった。カウンセラー通い合計5回。
 それ以外は普通。ただの高校生だ。学力面でも問題はない。
 資料では、の話だけども。
 春は自分の席の斜め左前にいる幼馴染を観察しつつ、資料につけられた顔写真を眺めた。
 元の写真とは似つかない、酷い落書きのなされた少年が映っている。基本は髭。次に眼鏡。さらに渦巻き。勿論、春が付け加えたものだ。
 しかし、目の前にいる現物のほうがネタ。
 彼の評判を変える事が目的である。高校生活を楽しむためにここに来た訳ではない。
 自分に心の中でそう言い聞かせるが、心のどこかにこうして学校に来ている事を喜んでいる自分がいる。
 永谷とコンビを組んで全米デビュー…。
 幼いときは北海道で過ごした。しかし、いつからか春の体の中にお笑いへの飽くなき探究心が生まれた。それが判ってからというもの、両親は春を突き放すようになった。
 ずっといい子にしてたのに。ずっとお母さんとお父さんが好きだったのに……。
 そしてある日、男がやってきた。
 その人は春のような人を集めている組織の人間であった。
 どんな取り引きがなされたのかは知らない。一週間後、春はその男に連れられて親元から離されてしまった。
 それからは妙な検査やネタ披露の訓練を受けた。そして、彼女はお笑いの新人になった。
 永谷園。探していた相方だ。
 普通に人間社会の中で生きている怪物。普通に生きているからこそ興味深い。
 そこで、私はデータを集めることにした。
 決して、ばれないように。だが、自分から漏洩したのだった。

 もう、小細工は無用。

 それが春の判断だ。
「なぁ、春」
 はっと春は顔を上げた。
「何か企んでいるだろ??」
 問いかけたのは紛れもなく、永谷園だった。
「女の子に、その質問は聞かない事ね」

   ▲ ▽ ▲

 五時限目が終わると共に、春の席はクラスメイトたちに囲まれてしまった。
 春は笑顔で周りの女子たちと話していた。
A「ねえねえ! 本当にあっちの人なの!?」
B「実は嘘でしょ?」
C「きっと、新手のコスプレね」
春「残念ながら事実ですぅ」
E「独り暮らしなんだって聞いたけど、大変じゃない?」
F「痴漢とか気をつけてよ」
 と女子たちが声を上げる。
 ある程度話が進むと、女子の一人が、
Q「どうして、柳生さんは永谷君のこと知ってるの?」
春「永谷……君?」
 一瞬、その場の女子全員が永谷の席を見る。
 永谷は席でウォークマンの音楽を聞きながら『ゲームラボ』を読んでいる。まるで周りを寄せ付けないような、他人と関わろうとしないような冷たい空気が彼を覆っている様にも見える。
P「だって、妙に話が合っていたというか……」
 周りの女子も頷く。
 春はあの時、SHRで永谷園と話したときのことを思い出した。
春「確かに…」
R「どこで知り合ったの?」
 春は不適な笑いを浮かべて、
春「幼馴染なんですぅ…」
G「あ〜、慣れてるんだ〜」
 驚いたような感心したような声が出る。
 ここで春はふっと湧いた疑問を尋ねるかのように周りの女子に聞いた。
春「……今の永谷君はどんな人なんですか?」
 すると、周りの女子が急にひそひそ声でしゃべりだした。
T「永谷君てね、変人なのよ」
春「変人……ですか?」
 春の席を中心として、周囲に険悪な空気が漂い始める。
O「そうそう。教室で新聞なんて読むし」
K「いつも本ばかり読んでるし」
S「ほとんど無口だし」
W「絶対あれ、他の人を馬鹿にしてるのよ」
 ひそひそ声で語られる、武勇伝の数々。
 春は黙っておく。話をしてもらっているのにこじれさせる道理はない。
U「なんていうか、生意気な奴なのよね」
V「それにあいつ、自分の事を“ステイビィー・ワンダー”って言ってるし」
C「頭おかしいのよ絶対」
U「間違えない」
T「よく授業中にトイレに行くしねぇ〜。ドラッグかもぉ〜」
L「シンナーかもね」
H「永谷の奴、家に親、帰ってこないんですって」
Z「うそ? なんで?」
N「ほらあいつ、母親が魔女じゃない? それで夫婦揃って魔界に行ってるんだって!」
M「げ〜、マジなの? 最悪ぅ〜」
A「妹も“ファントム”やってるらしいし」
M「うわ〜、こわ〜い」
 春はその女子たちの無責任な陰口にほんの少し胸が痛んだ。

Y「そ、そんな事言っちゃ駄目だよ……」

 突然、その会話の中に色の違う言葉が投げ込まれた。永谷園の陰口の中から、永谷園の側に廻る言葉が一人の女子の口から漏れたのだ。一斉に周りの女子の視線がその子に集まる。
Y「だって目の前にいるから、聞かれちゃ不味いわよ……」
B「確かにそうね! 忘れてたわ」
 そこで叫んだ女子がはっと気付く。すでにひそひそ声でしゃべっていなかったことに。いつのまにか気が緩んで、彼女たちの声は普通の声になっていたことに。
 緊張が走る。そして、ゆっくりと振り向いた。
 永谷は“GOOD JOB”のポーズをしている。

 その場に集まっていた女子は固まっている。
 だが、そこでチャイムが鳴った。

 天の助け――。その場の女子の何人かがそう思ったかのように安堵のため息をついた。そして、春に別れの挨拶をして席に戻っていく。
 春も次の授業のために真新しいゲームの設定資料集を取り出す。
 シャーペンを手の内で回して遊びながら、永谷園を眺めながら思う。

 永谷園。――前世からの相方か…。