事実無根

 事実無根ではありますが…
 バトランドのほうではパープルが大流行だってさ
 何たってホイミンの出身地の近所だからな…

 工事中のカフェテリアで珈琲を一服。ついでに、青酸カリも一服。
 喧しくて(うるさくて)おちおち、死んでもいられない。
 俺が頼んだのは、ブラック。勿論、珈琲の事だ。
 目の前では、下水道の配管工事をしている。流石に堰き止める訳にもいかないのであろう。別に仮のルートを用意している。しかし、その迂回のパイプは透明である。
 時折流れてくる、トイレットペーパーの残骸と誰かの排泄物。
 正直、カフェテリアには不釣合いの光景に我が目を疑った。
 まぁ、それでもよし、としよう。
 一定のリズムで聞こえてくる掘削機の音楽に身を任せて、珈琲を待っていた。
 しかし、いつも以上に遅い。いつものこの時間であれば、俺は珈琲4杯目を含んでいるはずだ。
 やっと来た。と、思ったらこの珈琲は少し変である。
 どことなく匂いは醤油っぽい。それでも、恐らくそんなわけが無いと信じ、おもむろに口をカップにつけてみる。なるほど、この味は丸大豆一番搾り≠セ。
 その時、珍しくガムシロップとミルクがあるのに気がついた。
 仕方ない、これは使うべきであろう。
 俺は迷うことなく、ガムシロップとミルクのみを一気に飲み干した。
 そして、俺は会計をする為に店員を呼んだ。
「お会計ですね」。そう言う店員に向かって笑顔で醤油を掛けた。
「釣りはいらない。取っておけ」。俺は優しく代金である350円をその店員の鼻に突っ込んで立ち去った。

 さて、至る所にサンドイッチ伯爵の銅像が立ち並んでいる光景を眺めつつ、私は笊蕎麦(ざるそば)を啜って(すすって)いた。
 流れてくる笊蕎麦を箸で器用につかんで、食べている。本当は笊をつかむ度に、手首に違和感を覚えているのだが。
 川上にあたる隣では、美味しそうに笊から瞬間的に蕎麦だけを抜き取っている男性がいる。見ればサラリーマン風の男である。なるほど、私よりも器用なものである。
 それを見て、私もやってみたくなった。しかし、上手く掴めない。頑張っても、一つの笊に乗っている蕎麦の1/3にも満たない。だが、私はもっと大切な事に気がついた。それは蕎麦つゆの残りがあまり無いということだ。
 私は近くにいた店員を呼び止めた。「つゆのお代わり、お願いします」。
 あくまでも愛想よく。店員もその言葉を待っていたかのようにつゆを持ってきた。
 流石、プロだ。いつものカフェテリアとは大違いだ。環境といい、店員の態度といい。もう言うことは無い。思わず、明日も通ってしまいそうだ。
 食べ放題の笊蕎麦屋が近所にあるのには吃驚(きっきょう)した。
 隣では、相変わらず男性が食べている。
 がしかし、どうもさっきとはペースが違う。なるほど、もうお腹が一杯なのだろう。
 ところが、だ。みるみる、顔色が悪くなっていく。店員は彼に駆け寄っていくが、もしかしたら、単に詰まっただけかもしれない。私は気にすることなく、笊を取ろうとした。
 その瞬間、彼は笊蕎麦の流れるレーンに吐いてしまった。私は何の事か分からずに、箸が止まってしまった。すると、私の使っていた箸は彼の汚物によって汚れてしまった。
 流石の私でもこれには耐えられず、座っていた椅子を彼の後頭部に殴りつけた。
 彼は暫く、痙攣(けいれん)をしているようだ。
 帰り際に、ポケットに入っていたウォッカを取り出した。勿論、気付けのためだ。そして、それを彼の胃袋に流し込んでやった。
 お会計を済ますと、私は今日もあのカフェテリアに向かうのだった。

 事実無根ではありますが…
 パピヨンって犬、耳が蝶みたいだから付けられたそうです
 いや〜、知らなかったね
 これが事実だって事を…