レンタルビデオショップで借りてきた初音ミクの音楽CDを聴いたのであるが。
初音ミクというのはパソコンでの音楽作成において一世を風靡している、歌声ソフトウェア、及びそのソフトのイメージキャラクターのことである。このソフトを使うと今まで人間自身が歌うしかなかった歌唱部分をソフトウェアが代理してくれる。つまり、奏楽しか作成できなかった人たちが歌楽にも手を伸ばすことができるようになったわけだ。現在、初音ミクの後続として鏡音リン・レン、巡音ルカなどがある。
所詮はソフトウェアなので人間そのものには及ばないが、伝なし知名度なしお金なしの作曲家達は歓喜して初音ミクを購入し、歌を作り、何百もの歌が世に公開され、中にはそこからプロ入りした人もいる。僕も何曲かネットを通して聞いていて、気に入っているものもあるのだが、音楽CDとして手元に置いたのは今回が初めてである。初音ミクの音楽CDは多数存在するが、CDとしての方向性はない。一曲一曲がばらばらでそれはそれで楽しめるが、多様すぎて方向性が定まっていないのである。CDとして買うには微妙なところ。方向性は作曲家次第になるのだが、作曲家のほうを見れば一人の作曲家が出している歌は少ない。一人が一人で作れる数は多くない、と言うことだ。
さて、聞いてみたのであるが……正直に言うと、なにか気持ち悪い。歌のいくつかが初音ミクそのものを題材にしているからかもしれない。そして、そのうちのいくつかが初音ミクを人のように扱っているように聞こえて物扱いしている。中途半端だ。
声は本来、人間のものである。そして初音ミクの場合、物が声を出している。その声は物を物として扱っている。これは珍しい。今までは例えばビデオや音楽CDのように物が声を出すにしても、声を入れるのは人間であり、その人間が自らを物扱いすることはなかった。初音ミクはそれをやっている。理屈の上ではそれが正しいのだが、感情面では違和感がある。
作曲者が初音ミクを人扱いしていない。そんなもの、初音ミクが人でない事は作っている本人達が痛いほどよく知っているだろう。所詮、モニターを前にして音符を置いているだけなのだから。
そういうものだからなのかもしれないが、それゆえ、歌もなんだか独りよがりのものが多い。「モニターの前にいるあなたのためだけに歌います」と言うものが多いのである。ある意味で正しい。初音ミクは当初、歌声を手に入れたというよりは一人の二次元女を手に入れた、と考える人が多かったようなので。作曲家の大半もその手の人が多かった。それを抜きにしても、作曲家自身のための歌が必要だったのかもしれない。
まずは自分のための歌を、というところか。それを表に出してよかったのかどうか。