二月 九日、月曜日の話
出向が終わったわけだが

 がくぶるの月曜日になるか。

[◆]新品スーツに新品カッターシャツに新品ネクタイと新品トレンチコート

 土曜日に新しいスーツとトレンチコートを回収し、本日から新しいスーツで出勤です。まあ、後述する話から新しいスーツを着ることで社長らの神経を逆なでしないか気になるところですが。

 新しいスーツはいいね!

[◆]一触即発の予感

 そもそも。今回の仕事の間はうちの会社では緊張と不満のうずまいている。なものだから、僕が出向先で行なった命令違反になるらしいバグ修正の事例とかが社長に報告されて、社長らの神経が逆撫でされないわけがないのである。バグ修正の内容が僕が元々出したものであったので命令違反になると言う自覚がなかったこともあるが、なんにしろ、どうにも命令内容に不備があるように思えるのである。僕からの意見なので客観性はないのだけれども。多分、多角的に見ても僕が悪いのだろうと思う。

 そんなわけで本日は自分の会社に戻って怒られることを覚悟していたのであるが、怒られなかった。つーか、起こられたらその推移によっては仕事を辞めることも考えていたのであるが、そうはならなかった。仕事を辞めるって言うのはおそらくは社長らの要求を僕が受けることが出来ないためで、都合の悪い部分を治さない社員は会社にとって邪魔だろうと思うからである。

 おそらく、社長らにとっては単純なことなのであろう。言った事は忘れないようにメモを取る、言ったこと以外は行動しない。実に単純だ。僕でもそう思う。しかし、実際は単純じゃない。言われてない事を言ったと言われる場合もあれば言われた事をやったら言ってないとされたり、常識やプログラマーの基本だからと言外の事柄で文句言われたり、自分で考えるなと言われたら次にはちょっと考えればわかるだろと言われたりとか、単純だと思われる事柄の内容は場面場面に合わせて複雑である。

 状況は非常に悪いため、上司も自分の言ったことをとやかく把握していない。そして僕には経験が足りない。上司はもう二年も仕事しているのに、と言うが、僕はこの会社における自分の成熟には五年は必要だろうと思っている。出来ればこの会社用に飼い慣らされる前に仕事を辞めたいのであるが、飼い慣らされる前に僕が別途、生活の糧を手に入れられるかが勝負どころだ。ちなみに、勝算は薄い。ゲームで遊んでいるようじゃね……。

[◆]一万円立て替えてくれませんかね

 本日の仕事は散々だった。プログラムの修正をしていたのであるが、どうにも修正仕様がはっきりしない部分か出てきてしまい、どうにも出来なくなったのである。上司はもう帰っちゃったし。正しい仕様を確認する術がない。本当なら正しく書き直された仕様書を待つのだろうが、仕様書の発行元がまったく信用されてない。仕様書が信用できないのにシステムなんか組めるか。ついでに言えば、口約束仕様も十分信用できない。八方塞だねぇ。

 そんなわけで出来ることがなくなったので午後九時ごろに会社を出たのであるが、雨が降る中折り畳み傘を開いて駅へ向かう途中、なんかおっちゃんに声をかけられた。話を聞くに、迎えが来るはずだったのだがぜんぜん迎えが来ない。そのせいで帰れないので一万円ほど立て替えて欲しい。あとで現金書留で送りますんで。ということらしい。

 財布の中には現金十一万円があった。なんでそんなに入っているかと言えば、今月分の親への上納金五万円とトレンチコート代の借金分三万円と今月の僕の自由使用分一万円と食費一万円と予備の一万円を銀行から降ろしていたためで、一時的に金持ちだったのである。それぞれの用途が決まっているとはいえ、一万円出せなくもない。

 が、そのとき。僕の気分的な問題で一万円を上げる気が起きなかった。ので、財布の中には定期券しかないと述べ、おっちゃんには謝って見せてその場を離れたのである。

 人通りはあるとはいえ、危険性を無視できなかったというのがある。要するに、怖かったのね。お金を取り出そうとした瞬間におっちゃんが強盗に変わらないという保証はない。特にこのご時勢である。派遣を切られて暴徒化する人も少なくなくない。たとえ暴徒化したとしても逃げるなら利立てはあるだろうが、まともに対処できるか自信はない。

 とりあえず思ったのは、楽しかったって事である。おっちゃんには悪いけど。新品で身を固めた一日の最後の味付けとして、記憶させてもらうことにしよう。ありがとう、おっちゃん!