十二月一三日、土曜日の話
今日も明日も仕事なわけだが

 マジやばいんじゃないの、この会社。

[◆]となりの応接間の恐怖

 タイトルには恐怖って書いたんだけれども、多分これって関係ある人にしか恐怖を感じないことなので安心していただきたい。

 今日は仕事で会社に来ているわけだけれども、どうやら同時並行でうちの会社の「新生委員会」も開かれているらしい。これは何だといえば、要するに今後、会社の運営方針はどのように進めていくべきかって言う会議である。ただ、書類を持ってあーだこーだではなく、役員と部長以上の人間の思想強化の面が強いらしい。となりで聞いているもんだから分かるんだが、「もっと全員が頭の中にあることを吐き出して、一体感を持ちたい」とか「うちの会社についてどう思っているか、うちの会社の名前を一回以上含めて語って欲しい」とか、運営方針を決める以前の一体感の無さ、会社の虚無性をさらけ出している。ちなみに、その全員と言うのは会社の幹部及び、社長の長男さんのことで若手社員は含まれていないらしい。つーか、なんで社長の息子さんがいるの。うちの会社で働いているわけでもなしに(固定電話の本体を売っている会社に勤めているらしい)。

 衝立を挟んだと隣で聞いている僕にとっては仕事どころの話じゃない。この会社マジで終わってる。終わっているのを何とか維持しようと役員が躍起になっているのである。部長たちはおそらく、役員達が期待しているほどこの会社のことを考えてないのだろう。僕なんかは既にやめたいと思っている。こんな会社、なくなってもらって構わん。

 ちなみに、会社の一体感を高めたいって割には幹部の一人であるはずの顧問がいない。まあ、彼がこの会社に来たのはまだ半年前だ。主な仕事は契約書の推敲とうちの商品の客へのプレゼンテーション補助で、常勤ではない。しかし、幹部には違いないのである。休みだ、来れない、と言う話はなく、最初から来ないものとして扱われているっぽいので会議から外されているのだろう。彼が外されているという事はつまり、参加者が選定されているってことでその程度の会議なのである。

 さてここで部長職の中でも一番上の人が消え入りそうな声で何か話している。「○○(部長の部下の若手社員)には辛い思いをさせている……時間が経てば解決できるのかなぁ……って……」。それは甘いだろおい。時間って言うか、根本的に人が足りてねぇんだよ、さっさと人を雇うように進言しろよ。

 最近気がついたのだが、うちの会社の人の採用方式はめちゃくちゃやばい。大学からの推薦でしか人が来ない。つまり、自由応募制ではないわけだ。それだけでこちらの選択は強烈に狭まるってのに、入社するには能力検査で一定以上の成績を収めなければならない。うちの会社に今年四月までに推薦されてきた学生は三人いたが、全員能力検査で落とされた。もとから、うちの会社は学生を就職させたからと言って箔がつくような会社じゃないから、大学からは行き詰った学生しか回されることがない。質の悪い学生しか回されない(情報学部にいたのにできることがインターネットとメールだけと答えるってまずいだろう。ついでに大学の就職講座にも参加してない)。どんなに大学就職課と懇意にしていても無駄だ。うちの会社が弱すぎる。えり好みしている場合じゃないのだ。

 活路を見出したかったら、うちの会社の給料を職能給から職務給に変えて役員の給料をカットして新卒既卒フリーターニート派遣に関わらず有能な人を雇うことである。本当にギリギリな状態になっているのに、白紙の子から育て上げるには時間が掛かりすぎる。今は不況で能力があるのに会社を辞めさせられた人や就職できなかった人があふれているので自由応募で年齢職歴不問、犯罪歴問で応募をかけるべきだ。待遇の面でほとんどの人がスルーする事は間違いないが、そうしたほうがまだ希望がある。ついでに役員は全員引退な。六〇歳越えてまで働くんじゃねぇ。もう十分稼いでるだろ?

 役員引退はしなくても何とかなるとして、人の採用はなんとかしたい。作り手がいなきゃ売れるものも売れない。「営業力が足りないのが弱みかな」って営業力が足りないのは物が無いからだろ。作っているものを把握し切れている人すら少ないじゃないか。隣から死臭が漂ってくるぞおい。

 営業について言えば、うちの商品の広め方にも何か問題がある気がする。お客さんのお客さんに、という広め方を今は採っているらしい。昔は代理店にチラシ配りを頼んでいたのだが効果がなかったらしい。今の方式は(昔の方式も大概だが)ばっと広がるような方法ではないのだ。カタツムリがのろりのろりと葉から茎へ茎から葉へと進んでいるようなもので、隣の植物へと移動するのにどれだけ時間が掛かるのか。IT企業の癖に情報伝達の方法が今ひとつだ。

 インターネット検索エンジンへの働きかけが無い。いまや探しものなら検索エンジンを使うのがもはや常道である。検索エンジンに広告を載せる事は情報伝達としては最高位である。社長の弁によればうちの会社の商品はまた他のソフトウェア会社では開発されていない独自技術であるらしい。多分、本格的に必要になってくればいろいろな会社が作り出すに決まってるが、今は本当に競合相手がいないようなのだ。うちの商品の特色に含まれる重要な単語を検索に引っ掛けても商品の宣伝系が引っかからない。……おかしいな、うちの会社の商品すら出てこないぞ……ウェブページ持ってるのに……。うちの会社、独自技術と言いながら社外では独自技術として認められてすらいないのかい。マジ終わってんな。利益出るはずが無いだろ。商品名を直接検索しても出てこないじゃん。社名検索でようやくうちの会社情報が出てくるが、会社の情報だけで商品に関する情報が検索画面では出てこない。個人ウェブページレベルだ。何している会社かすらわかんねぇ。営業力も無いが広報力も絶望的だ。

 こうやって会社って滅ぶんだね。分かりそうなことも分かってないんだ。あーあ。

 あと、新生委員会で若手社員の横でやるな。そんなに絶望感を満喫させたいのか。