八月二三日、木曜日の話
人から仕事を奪う仕事をしている

 よく考えると、経営ソフトは人の仕事を奪っていると言える。

[◆]便利になった

 世の中、ずいぶんと便利になった。その便利さを押し上げたのは言うまでもなく、コンピューターの登場であろう。コンピューターは画期的な革新をもたらし、人間の負担を肩代わりしてくれた。その結果、負担率零の人間が出てきて職場から追い出される羽目になった。リストラが横行したのは何も経営が危なくなったからと言うだけではあるまい。コンピューターの登場で人を減らしても会社を動かすことができたからだ。

 少ない労働者で会社が動く。こんなもん、雇われない人が増えたって仕方ない。会社は雇うにしても選り好みができ、社会に合わない人間は捨てられる。どれだけ雇用促進をしても無駄である。今の社会は、人間が必要ない社会なのだから。

 例えば、その昔は飲み物を買おうとしたらお店に出向いて売り手から欲しい飲み物を受け取る必要があった。今は自販機で飲み物の受け渡しに人間が介在することはない。定期的に修理屋が来るだけで修理屋が飲み物を買い手に渡すことはほとんどない。

 僕の場合は、経営ソフトを作っている。つまりは会社を運営するために必要な人間を不必要な存在にするためのものを作っているわけで、何のために使われるかと言えば人件費削減が主な目的。企業利益を伸ばすなんて言うのはソフトの目的であって利用目的ではないのである。人の仕事を奪うために働いている。これは、果たして社会のためになっていると言えるのか。毒をばらまいているように感じる。

 コンピューターが人間の労力を負担し、結果として雇用が削減されているのである。余った人は安い賃金でいいから、と引き下がるしかない。パート、アルバイト、フリーターの増加は、つまりは若者の働く意思が弱いのではなく、もろに雇う気を出していない企業側にも責任があるだろう。

 便利になるというのは、行動と結果の間に人間がいないということである。つまり、人間を多く使うと不便になる。便利さを捨てる企業がどこにいると言うのか。経費削減、利益増大が信条なんだろうが。あほらしい。

 つまり、多くの人間が雇われるためには不便さを楽しむ企業が出現しなくてはならない。経費削減も利益増大も掲げない、単に人間が動くだけの企業が。

 実に面白そうだ。もしもそんなものが出来上がったとしたら、おそらくはそこらじゅうから人間を引っこ抜くだろう。ま、利益が出ない分、現在の社会からは捨てられることになるだろうが。コンピューターもテレビも旅行もなしだ。ただ、もしかしたらと思うのだが、人間が多い分、広大な土地とあらゆる可能性を手に入れることができるかもしれない。

 地域の一つぐらいなら、占領できるかもね。

 これはこれで、考えてみると面白いかもしれない。考えるだけならタダだしね(笑)