六月一一日、月曜日の話
悪い意味で限界を感じた

 何を指示されているのか理解できないとかね……。

[◆]悪い意味で限界を感じる

 この日は、会社で利用するモバイルPCのOS再インストールと各種アプリケーションのインストールを行っていた。まあ、それだけならば時間はかかるのであるが特に難しいこともなく状況は進んでいった。状況が激変したのはモバイルPCの環境調整がすべて完了した後である。勤務時間終了の一時間半前だった。

 思わせぶりな前振りなのだが、単に仕事が与えられただけなので、激変って言うほど激変でもないのだが、今回僕が感じた危機感は最高級と言えた。だって、仕事内容がまるっきり理解できないんだぜ? 理解できなきゃ仕事ができないというわけで、無能中の無能ということになるわけだ。終わった。

 仕事内容を簡単に言うと、経理ソフトから出力されたデータベースをもとに、その中から必要なものだけを抜き出し、合計し、まとめて出力するプログラムを作成することである。ここまでわかっていれば仕事がうまくいくのかと言うと、そうでもないから困っている。データベースの、どこから、なにを、どれだけ、どういう手段で出力すればいいのか、という過程の中で、なにをどれだけどういう手段で出せばいいのか理解できなかったのである。

 半分寝ぼけていたとはいえ、これはひどい。家に帰ったらさっさと寝ることにしようと思いつつ、六時になったら即座に帰宅したのであった。明日、頭がすっきりすればいくらかは改善されるであろう。

 しかし、話を聞き終わった後に感じたものは、どうしようもない限界感だった。僕はソフトを作ることに向いていないんじゃないかという気がする。ここ数日は SQL の勉強をしていたが、さっぱり頭に残っていない。本当にプログラマーとしてやっていけるのかどうか、疑問を持っている。所詮、プログラミング二ヶ月なので、限界を感じるには時期草々なのは分かっているのであるが、本来ならばもっと単純な仕事をしたほうがいいのではないかという気がする。

 僕はそれなりに頭が回るほうらしいが、頭を100%使っていいのは自分の趣味につぎ込む時だけのほうがいいと考えている。仕事とはチームワークであり、頭脳仕事において限界を感じるということは周りの足を引っ張ることになりかねない。新人なので足を引っ張ることなんか当然過ぎて笑われると思うのだが、その状況がいつまで続くことになるのかと言うと、笑い続けることも難しいのではないだろうか。僕としては頭が痛いところだ。

 ああ、僕はこの仕事を続けていけるのだろうか。目的を達成するために必要な手段を獲得するところで躓いていては、僕の目的なんか死ぬまで達成できないだろう。一瞬、自殺が頭をよぎった。目的を果たせないのに生きている意味はない。ま、自殺は五〇歳を超えてからにしようとは思うのだが。あーでも、よく考えると僕は餓死で死ぬと決めているんだった。頭がぼけているなぁ。

[◆]ネット掲示板の付き合い

 僕がお世話になっているネットの掲示板、「ハルヒのジャズ雑談らじお」において、先週の金曜日、長く付き合いのあった方が脱退を表明されて掲示板には来なくなった、らしい。その表明がなされたことを僕は知らされるまで知らなかった。お世話になっているとは言え、やはり仕事を始めたらすべてを吸収しきることは無理らしい。

 さて、知らせを受けて脱退宣言などを読ませてもらったが、ちょっと澱んでいる脱退宣言だと思うことを先に明言しておく。納得も理解もできるが、すがすがしくはない。ま、ちょっと意見が合わないと感じればすぐに捨てられるネット上の人間関係であったがゆえのものだと思うので、ま、仕方ない。どっちもどっちだったしなー。後述する。

 ネット上での人間関係は実に希薄なものだ。全員が仮面をかぶっているどころの話ではなく、ほとんど無縁仏同士でしゃべっているかのような、無機質な情報のやり取りに過ぎない。意思疎通と言うよりは意見のぶつけ合いに近く、テーブル席で顔を合わせて会話しているかのようにできる人は非常に少ないだろう。それにしたって相手に発言を思いとどまらせることが難しいし、場合によっては吸収するべき情報が多すぎて吸収しきれないかもしれない。ネットのやり取りは、往々にして相手が理解するまで待ってくれないことが多いのである。相手が理解したかどうかを瞬時に判別することができないからだ。

 やっぱ、いくら情報化社会と言っても、現代においては実際に顔を合わせてからじゃないと正常に議論をすることは難しいんだろうなぁ。電話一本だけじゃ商売できないってことだね。

 ちなみに、意見が合わなくなったら簡単に関係を捨てられるネット上の人間関係であるが、意見が合えば簡単に拾えてしまうのもネット上の人間関係である。脱退宣言をしたとしても、いつでも戻ってこれる。ま、気が向いたらまた雑談に参加すればいいじゃないかな。そんなところだ(笑)

 ここからは事情を知っているハルヒのジャズ雑談らじお住人にしか分からない話をする。件の議論スレにおいては、ぶっちゃけどの意見も確たるところがなく迷走していたと言える。最後なんかひどいもので、「寝なきゃならないから強制終了」され、本当のところではまだ議論は正しく決着がつけられていない。団長の鶴の一声により議論は封殺されたが、あれで納得しているようじゃまだまだ。今回の件は、単なる体力勝負(精神力勝負かも)であり、先に擦り減ってしまったほうが抜け落ちた。僕が澱んでいると表現したのは、この部分があるからだ。全力を出し切ってはいない、単なる逃げ切りに終わってしまったのは残念だった。

 住人も議論から逃げ腰だったのがいただけない。逃げ切りの議論終了後の僕の意見について、意見を述べてくれたのは一人だけ。これはスレッドではなくチャットで行われたが、当のスレッドはまるで臭いものには蓋をするかのような状態になった。何が占拠についての議論だ、馬鹿野郎。

 今回脱退した人については、確かに議論内容において問題がある発言をしていたし、対立するのも仕方なかろう。しかし、受け手にも問題があったことは否めない。どっちにも問題があった。その状況を踏まえて感じるのは、脱退した人はタイミングが悪すぎ、またネットに出せる情報量の少なさゆえの犠牲者だろうということだ。

 彼の進む先に、彼の幸せがありますように。

 コーヒーの人