五月二九日、火曜日の話
手にナイフを刺すことばかり考えている

 非常に唐突なのだが、自分で自分の手にナイフを突き立てる必要がある、と考えた。

[◆]僕はまだ子供だと思う

 会社に行くまでの間にライトノベルを読んでいたのであるが、その中では幼い女の子が自分をかばって銃弾から助けてくれた男に対し、態度を急変させるということが書いてあった。その後、「この子が成長した時、いったい何になるのだろうか?」ということが書いてあった。僕から見れば一目瞭然で、その子の場合、成長して、子供から女になるんだと思った。

 その子を幼いながらに女にしたのは、男の銃撃から身を守るという行為だ。自分を守ってくれるほどに強い男の存在が、少女を女にしたのである。さて。

 そこで僕は思った。はたして、僕は子供から男に成長しているのであろうか。子供から大人へ、というのであればまあ時間が過ぎればなってしまうものなのであろうが、僕は男になっているのだろうか。そう思った時に、僕は自分の手にナイフを突き立てることを考え始めたと言える。それは、外から見れば単なる自傷行為に過ぎないが……僕が求めるのは、痛み。今まで、それを試せるほどの勇気も必要性も感じていなかったが、男になるために、本当の痛みを知る必要がある、と感じた。心が、精神が、理性が。僕の全てが。

 仕事を放り出して考えていたのだが、はたしてナイフを突き立てることが僕が男になるにあたって正しいことなのか。実のところ分からない、というよりは、痛みを知ったからと言って男になるわけではない……それはただ一つの過程に過ぎず、しかしながら男になるには必要な行いだと思う。

 自問自答をした。僕は自分の手にナイフを突き立てる自分、というものに酔いたいのではないか。自己陶酔というものだが、しかし考えるとそれで何を得るのか、見当がつかない。ここには僕しかいない。すべては僕だけに始まり僕だけに終わる。まあ、やったらそれなりに騒がれるだろうが。

 でも、僕は男になりたい。それなしに、この先生きていても面白くないだろう、と思う。僕はまだ子供なのだ。二三歳になった今でも。それでは駄目だ。

 人間として、男になりたいのだ!