六月 二日、金曜日の話
腕時計店へ!

 時計店に行くまでの間に、どうやって店主を地に沈めるかばかり考えていました。

[◆]自分で探しに行かないと駄目なんです

 話は二日前の水曜日に戻ります。この日、お母さんが腕時計をチョイスして買ってきてくれたのですが、この腕時計が僕の注文していた皮ベルトの腕時計ではなく、メタルベルトだったために非常に不機嫌になりました。話では、店先でお母さんが皮ベルトの腕時計を買おうとしたところ、「今の若い人はみんなメタルベルトだよ!」と店主がそそのかし、お母さんはメタルベルトを買ってきたと言う。諸悪の根源は時計屋の店主です。

 その話を聴いたとき、一瞬で以下の脳内店主との会話が成立しました。

「おじさん、若いですね」
「え、そうかい?」
「ええ、これから三途の川を渡る人にしては

 撲殺ものですよ撲殺もの。お母さんもあれだけ僕が皮ベルトにしてくれって言ったのに、メタルベルトにするかね。



 そして金曜日の本日。僕自らが時計店に乗り込むことにしました。もはや半切れです。「それだけ怒るなら、最初からあんたが買いに行けばよかったのに」というお母さんの意見は至極もっともなもので、本当に悪いのは自分が身に着けるものの選択を他人任せにした僕自身です。スカイプのヘッドセットの選択を他人任せにしたときも同じ経験をしたというのに、僕の怠け心は矯正不可なのでしょうかね。

 時計店に着き、まずは店先に展示してある時計を眺めまして……だんだんと怒りが消え、ものすげー自分が恥ずかしくなってきました。なんということはなく、店に並べられた革のベルトの時計の皮ベルトが、どれもこれも僕のイメージにはかなり溝があったためです。その溝というのが、「何夢を見てるんだお前は?」というレベルに達していたことを悟り、要するに皮ベルトを理想化しすぎていたことを知ったのでした。で、あれだけ怒っていたのにも関らず、いまさら「メタルベルトのほうがいいです」と言うのが恥ずかしくて頭を抱えたのでした。結局言いましたけれど。埒が明かないし。

 と、いうわけで、一時には殺意を覚えた時計店の店主に心の中で謝りつつ、腕時計のベルトがずいぶんと余っていたのでそれを調整してもらいました。そのご、メタルベルトは付けたままでも手が洗える、革のベルトだと水が付いた後に縮むから少し不便だよ、という話を聴いて見た目だけで選ぶのも問題だったと思いました。

 僕は、まだまだ未熟なようです。