八月二六日、金曜日の話
BE戦争 〜睡魔の強襲・コーヒーの逆襲〜

 今日は徹夜した事を踏まえて地元の駅でブラックコーヒーを買って飲んだのですが……まずいことになって来ました。

[◆]睡魔の前に散る

 何がまずいって、コーヒーが効かないんですよ。昨日までバリバリに効いていたコーヒーが、今日は全く効かない。電車の中で何回立ちながら寝そうになったか分かりません。意識が持って行かれるたびに足が崩れて「かくっ」となるのでその都度「びくっ」と起きます。座れれば睡眠を取ることが出来たのでしょうが、今は通勤ラッシュ時で座る事なんか出来ません。
 これは……結果です。僕が自分の意思で徹夜した結果なんです。ゆえに僕は責任を取らなくてはならない。僕が取るべき責任とは、「徹夜した後でも平常どおりに仕事をし続ける」事ですが……電車の中での状態を考えた上では、かなり困難です。元から睡眠不足には激烈に弱いのに、無理するから……。

 元気な時はいつも一重まぶたなのであるが、完全に右目が二重まぶたになってるような状態で会社に何とかたどり着きました。すでに過労で倒れやしないかと不安でした。「疲れすぎ」というのは他人の目で判断されるものではなく、自分で感じなくては分かりません。過労で倒れる瞬間というものはいままでに感じた事はありませんが、おそらくは自分でも驚くぐらいに意識がいきなり無くなるんだと思います。小説のように「意識が……」なんて感じる暇があるのかどうか。実際、椅子に座って本を読み始めるといい感じで意識が異世界に吸い込まれていきます。いきなり隣に向日葵が咲いて笑い出したり、足元で銃撃戦が始まったり、屋内にいるはずなのに雨が降り始めたり、物干し竿が三千円に跳ね上がったり、会社の売り上げグラフが上行ったり下行ったり上行ったりした行ったり。白昼夢とは違うでしょう。気がついた瞬間、僕は寝ている。そう、その一瞬の幻覚を見た時には僕は寝ているんです。

 人間が睡眠を取っていて、夢を見ているとき、脳は起きているときと同じレベルまで覚醒しているそうです。僕の今回の場合は、脳は起き続けているのにいきなり睡眠に入ったために、いきなり夢の中からスタートするようなものなのかもしれません。とにかく、夢を一瞬見て自分が寝ていることに気がつくわけです。たまったもんじゃない。いつ自分が目を閉じたのかも分かりません。寝ているというよりは意識を失っていると言ったほうがしっくり来ます。

 が、そんなこと言っても周りから見れば居眠りしているようにしか見えないわけで。僕の目の前のテーブルにブラックコーヒーの空き缶が二本置いてあっても知ったこっちゃないでしょう。責任は僕にあるわけで、本当、処置なしです。が、当の僕と言えば睡魔と死闘をするのに精一杯で仕事は全く進みません。トイレ行ったりコーヒー飲んだり意味もなく歩き回ったりでなんとか眠気を紛らわそうとするのですが、仕事をするために座るともう駄目です。自分の睡眠への欲求はもはや僕の意思力ではどうにもならないレベルにまで達しています。欲求というよりも強制のレベルに近い。今すぐ眠らないと緊急時に行動が出来なくなります。
 仮眠を取ればいいのでしょうが、ここって仮眠取らせてくれるのでしょうか……。

 午前の部を乗り切り、昼休み、轟沈。昼休み前の一〇分間がものすごく長かったです。そして、二〇分間意識失いました。目覚ましはセットして起きましたよ、ちゃんと。で、昼食を食べ、また轟沈。今度は一〇分間しかありませんでしたが。そして、午後の部開始。

 最初の二時間はまだ何とかなっていたのですが、二時間過ぎるとテーブルの上にコーヒーの缶が出現し、二本、三本と増えて行きました。もう仕事どころじゃありません。頭の中は悲鳴と救済願いの嵐です。本気で「助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて」と頭の中で叫んでました。そして二時ごろ、意識を失い、上司の方から「三階で休んでなさい」と言われて三階へ。床の上に寝転がって意識を失いました。

 一回謎の内線で目を覚まし、しかしすぐにまた寝て次に目を覚ましたのが三時半。一時間ほど寝たことになります。頭は痛いし、おなかもコーヒー飲み過ぎたせいか痛い。吐きそう。けれども「助けて」という声が聞こえなくなっているのでずいぶんましになったようです。そして一階に降り、社員の人にエクセルでハイパーリンクを張る方法を教えてあげていました。僕の行っている会社はIT企業ですが、総務課はITとは関係ないところで動いているせいか、疎い所があるようです。

 そして何とか六時を向かえました。助けて助けて助けての連呼が再び来ていました。もはや呪いです。必死に本日の報告書を書き、帰宅。家に帰り、夕食を食べ、シャワーを浴び、午後九時にベッドに入って寝ました。僕の求めていたものがここにある。自分の限界を思い知った今日でしたが、この時ばかりは、幸せでした。