八月一〇日、水曜日の話 [◆]社長との邂逅
僕が企業実習に行っている会社には、今まで社長がいませんでした。と、いうのは、この会社は東京の方にも別の部署が活動している拠点があり、社長はそっちの方に行っていたらしいのです。今まで。で、その社長さんが戻ってきたのですが……。 もう社員に対する態度、受け応えからして「社長」でした。僕はその時、一生懸命というわけでもなくLANケーブルでプリンターと社内ネットワークをつなげてプリンターを使えるようにしようと机の下に潜り込んでいました。他の二人は元総務部の部屋を掃除していて、そこにはいません。そんな中でばっとやって来て部屋の中を見て、もっと机を寄せろとかコードを綺麗にまとめろとかキャビネット(書類を置く棚)はあそこに四つとか配線なんか後で工事でどかせられるとか、おいおい、すぐにそんなにできないよ、と思うようなことをずばずば言っていき、実際に机とかもすぐさま移動になりました。 総務部の移行状況を聞き、その進み具合について「インターンシップ生も来ていて効率が出るんだからもっと無駄を無くせ」とか、まあ文に書いてみれば普通、しかしその場で味わうとなんとも不合理な事をいうわけです。これでも汗水流してやったんですよ。 「コストを抑えないと会社が持たないじゃないですか」とか、ものすごい威圧感を伴って言ってくるんです。直立不動、手も前で組んだまま動けません。やばいっす、無駄な事をしようもんなら三〇分はお説教されそうです。 その後の話でも「すでに面について承認を出しているのに、なんで点について承認がいるんですか」とか、「契約書は全部データ化します。原本なんて裁判でもない限り使いませんから、とにかくどこにあるのかをはっきりさせて、あとは閉まって鍵を掛けて出しません。だから、どこにあるのかをはっきりさせてください」とか、膨大な仕事量になるであろう事をさらっと威圧的に言って、二時間のミーティングになだれ込んで行きました。その間、僕は配線の続きをし、コードをまとめ、自動販売機に飲み物の缶などを補充しに来た業者を迎え、とにかく仕事をしていました。 一回、ミーティングルームから漏れ聞こえる社長の話を聞いていると、まさしく理想かくありきのような調子なんです。しかし、落ち着いて考えてみると社長とはそういうものなのかもしれません。理想を持っていないと駄目なんです。理想という目標を持ち、それに仕事を追いつけさせなくてはならない。理想を実現させるって言ったら、普通は辛いことです。例えばミュージシャンになりたいという理想があって、それを実現させるにはどうしたらいいかと考えると物憂げになりますが、それを実現させるために、会社では社員を動かすわけです。もう社員必死です。理想を得るために各自で分担して実現に向けて仕事をするわけです。まぁ、一人では無理な夢も五〇人揃えば実現できるでしょう。 社長とは、自分の夢を実現するためにお金で人を雇って実現を目指す人の事なのだと思います。ゆえに言う事は理想ばっかりで、それの実現を目指すのは社員な訳ですが。お金もらっている以上は文句言えません。 社長とあったのはそれっきりでしたが、なかなかインパクトがあったと思います。他の二人よりも先に社長に会えてまぁ、良かったかもしれません。 その後は一日配線のために頭を悩ませ、重いキャビネットを必死に動かして一日を終えました。明日も作業らしいですので、スーツではなく普段着でいいらしいです。ちょっとは楽かな……。 今日は早く寝ることにします。昨日は零時まで起きてたせいで、今日遅刻しかけたんですよねー。 |
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