八月 三日、水曜日の話
早くも辛い

 セクト更新? そんな時間なんかない。

[◆]何も出来ない

 企業実習三日目。早くも辛い。
 仕事は今の所、真面目に大学に顔出せる程度なら普通にこなせる単純作業の積み重ね。企業内で使われているポータルサイトのデータをコピペで新しくできたポータルサイトに運ぶ。もしくは総務部内で動いているプロジェクトの一覧をエクセルで延々作るとか。これは武道で言えば正拳突き五〇〇回に似ている。正拳突きとは拳を自分の正面に打ち出すだけの反復作業であるが、大体五〇回、一〇〇回と続けると腕が疲れてくる。その中で五〇〇回、一〇〇〇回とやれは体が鍛えられ、拳も引き締まり、威力も上がるわけである。コピペ作業でもそれが社内データである以上、やり続けていれば会社内部が見えてくる。新人育成には合理的な措置であると言えるだろう。

 で、事実上会社での作業はそんなに辛くはない。むしろ楽だとも言える。単純作業が平気なら、これだけで済むなんてラッキーな話である。特に何か責任を負わされるわけでもなし、これがインターンシップでなければお金がもらえるのである。わっほい。

 が、実は辛いのはここではない。問題は労力ではなく時間である。実際に怖いのは、就労開始時間よりも前に会社に来て掃除をしている社員の姿であり、業務終了放送が流れても誰も帰り支度をしない社員の姿である。パソコンでキーボードを打ちながら昼ご飯を食べている社員を見ていると、一体どうやって自分を保っているのか、分からない。
 会社に来ている間は自分の好きな事が出来ないのである。まあ、それなりにやっているのかもしれない。インターンシップ生である僕が遠慮しているだけかもしれない。じゃあ、それは置いといて。

 前にも書いたが、僕は六時に起きて七時に家を出て、八時半に会社につき午後六時半に会社を出て七時半に家に着く。そして次の日のために十一時には寝る。自由に活動できる時間は午後七時半から十一時までの間で、その間自由かと言われたらお風呂にも入らねばならないし、夕食も食べねばならない。実質、二時間もない。ネット巡回をして音楽を聞いていたらそれでおしまいである。うっかりするとセクトの日記も書けやしない。家での行動も全てスケジュール化しなくては何もできなくなる。

 どんどん無駄を省かねば。ゲーム? 漫画? テレビ? そんなものに投げる時間はない。パソコンの前に座るだけで精一杯なのである。一日の一二時間以上を会社のために使わなくてはならない。今ならなんでフリーターの人が増えたのか、よく分かる。自分の時間を持てないからだ、まともに就職してしまうと。
 フリーターが増えた事は社会問題化しているが、これは時代の流れの素直な反応だと思う。今の時代の人は、自分の時間に掛ける比重が仕事よりも重い。僕もそっち側の人間だ。通勤に一時間もかかってたら泣くよ、本当。こういうと「そんなの、通勤に三時間かかってる人だっているんだし」という人もいる。僕をそんな暇人と一緒にしないでください。通勤に三時間も掛けられるほど暇人だったらこんなに苦しんでません。

 まあ、そういうことを言うと当然ながら怒られる。「お前はまだ若いんだよ」と貶される事もある。当たり前だろ、若いんだから。結果として、仕事を辞める。普通に考えて、自分の趣味と仕事を両立させられることは難しい。稀な部類になるだろう。「嫌な事をするからお金がもらえるんです」とインターンシップ講義で講師としてきていた誰かが言っていたが、嫌な事を通り越して生殺しに近くなっている。まあそこまで行ったら普通はその仕事を辞めるだろうが。もはや、終身雇用なんて化石な訳だし。

 なんてことを考えている間に、もう寝なきゃ。電車に遅れたら、遅刻する……。